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魔王の罠


 結論から言えば、ネムちゃんはただ眠っているだけだった。


 鉄製の首枷を嵌められて、明らかになんらかの効果を及ぼしているだろう魔法陣の上に寝かされてはいるものの、ただ眠っているだけに過ぎなかった。


 ああ、それなら良かったー……ってなる? ならないよね。


 ネムちゃんちの家庭環境どうなってんだ。とこの状況を作ったであろう変態性犯罪者アドラスに話を聞いたところ。


「うるさいから眠らせているだけだ。首輪は……好き勝手に動き回られると、被害がだな……」


 とのこと。


 そんな理由で女学生の監禁が許されたら世の中犯罪者だらけになるんですけど??


 下手な言い訳しやがってとイライラを(つの)らせつつ、おっさんの言う()()がどんなもんかと部屋に視線を巡らせた。


 被害ねぇ……そんなもの……。


 ないじゃんかと結論を出そうとして、書棚の下に不自然な布の包みがあるのに気がついた。


 ……魔力を伸ばして、中身を探査。


 ガラスの破片が詰まってました。あと魔石だけ取り除かれたっぽい魔道具が五個。


 ……いや、まあ、その。

 確かにこれは、笑って流すには少し、被害が大きいと、言えなくもない、かも、しれない。


 そーね……ヘレナさんだったら一週間はどんよりしてそうな被害額ではある……かな?


 でもこれだけで首枷ってのはさすがに――とそのまま視線を横にスライドさせた先で、また気になる物が。

 今度は床に積み上げられた本と、その横に纏められた紙片の束が目に入った。


 他の本は書棚か机の上に置いてあるというのに、そこだけ不自然に床に直置き。しかも紙片の大きさが、ちょうど本の一ページくらいかなー? なんて……はは……。


 よく見ると、()じられた本の中程がくしゃっと折られたり破られたりしている物が見受けられますね、ハイ。あっ、その下の本は中身が何十ページという単位で抜かれてるんですね分かります。しかもそれら全部が、狙いすましたかのように古そうで価値ありそうな本ばっかりってところがもうね、涙を誘う。


 何があったかは知らないけど、貴重品を放置したままネムちゃんをこの部屋に入れたのがそもそもの間違いだったんじゃないですかね。


 とりあえず自己管理意識の低さから高い授業料を支払わされたっぽいおっさんはもう放置することに決定して、ネムちゃんを起こすことにした。


「おーいネムちゃーん」


 魔法陣の範囲外から声を掛けるも起きる気配はなし。ま、そりゃそうよね。


 少しだけ気合を入れて、光を放つ魔法陣の中へ一歩、踏み込んだ。


 さて。


 ネムちゃんの傍にしゃがみこんで、早速作業を開始する。

 いざ囚われのお姫様を救い出さん、ってね。


 えーっと、魔法陣はこれ、眠気を誘う程度の弱いものだね。

 放って置いても害はなさそうだけど、一応魔力を抜いておこう。


 で、これよこれ。見るからに物々しい、床と鉄鎖で頑丈に繋がれてるこの首枷は、っと、ここで鍵か。

 首枷についていた大きな南京錠の鍵穴に投げ渡された鍵を差し込んで回すと、無事に解除完了。ネムちゃんは晴れて自由の身となったのだった。


 ……んー、てか意外だな。この首枷、魔道具じゃないのね?

 ならネムちゃんならこの程度の拘束具、どうとでもなりそうなんだけど……なんだろう。ごっこ遊びと騙して自分から逃げ出さないように仕向けてたとか? それとも普段の躾の成果とか? んー……わからん。ネムちゃん関連は謎が多いな。


 まあ、それはそれとして。


「ネムちゃん。ネームちゃーん。起きてー」


 拘束は解いた。頬をペちペちと叩いて覚醒を促す。


 ぺちぺちと……えっ、なんでこの子こんなに肌すべすべなの? え? 寝てたから? 普段ですらもっちり病みつきお肌なのに、いつもの三割増ですべすべなんですけど!?


 すりすりもにもにとほっぺたを触って秘密を探っていたら「うにゅー」と可愛らしい声が漏れた。やばいかわいい。この子うちで飼いたい。


「んぁー……? あ、ソフィアだ! ソフィアー!」


「おはよ、ネムちゃん」


 目の覚めたネムちゃんは私を認識すると、寝転んだ状態からそのままがばちょと抱き着いてきた。


「むぎゅー」っと頭をぐりぐり押し付けたらとりあえずは満足したらしく、もう完全に目が覚めた様子で私の顔を見上げてくる。


「ねえねえソフィア。魔王になろ?」


「はい?」


 なんですと?


 相変わらずネムちゃんの行動は突飛過ぎて困る。


 唐突に掛けられた言葉の意味を理解しようと頭を働かせ始めたが、その思考はネムちゃんの喜びの声にかき消された。


「えっいいの!? わーいやったーっ! 一緒にがんばろうね!」


「えっ」


 了承したことにされている?


 待ってなんで? なんでそうなる? 私はまだ何も言って――さっきの『はい?』かァァッ!!?


「待って違う、今のは違うの」


 慌てて弁明するも、ネムちゃんは聞いちゃくれなかった。


「えへへへー。ソフィアが魔王になれば百人力なのだ! 我と共に迫り来る敵を打ち倒そうぞっ!」


「いや、あのね……」


 そ、そんなに喜ばないで……。誤解なの……ッ!


いいか。心してかかれ。

ぬか喜びさせた子供は……手強いぞ?

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