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罠の正体


【探究】の賢者アドラス。ネムちゃんの師匠。


 約束通り、放課後に再度部屋を訪問した私はそこで、囚われたネムちゃんの姿を見た。


 瞬時に悟った。これは罠だと。


 それに気付いた私は、逆に罠を張ることにした。


 わざと呆けた横顔を晒して、その隙だらけの姿に油断した相手が罠を発動させた瞬間。その全ての罠を乗っ取り指向性を操作する。


 私を襲うはず罠が全て、仕掛けた本人を襲う。


 私を攻撃しようとしたその時が、貴様の最期だ。




 ――そんな青写真を描きながら、室内に行き渡らせた魔力と同調すること、数秒。


 状況は膠着していた。


 ピリピリと肌がひりつく様な感覚と、一瞬も気を緩められない緊張感が場を支配する中。


 お互いに、指一本動かすことが出来ないでいた。


(……いや)


 ――果たして本当にそうだろうか?


 実は私が気付いていないだけで、この状況が既に、相手の思惑の内という可能性も――。


(……罠に気付かれた? それとも、魔力の影響を完全に無視できる手段を持っている?)


 自然界に存在する魔力は、一般的には視認はできないものとされている。


 それでも確かに存在し、故に私はそれを操ることで人の目から隠れて魔法を扱う術を鍛えてきた。


 ……だが、その発想はネムちゃんから。ひいてはその師匠たる賢者アドラスが(もたら)したものだ。


 自然魔力の有用性と秘匿性を理解している相手ならば、なんらかの対抗策くらいは持っていてもおかしくはない。


 だとしたら――。


(……マズイ、かな? ここは相手のホーム。一度仕切り直して……ッ、でも、ネムちゃんを置いていくことなんて……!)


 ――手詰まり。

 そんな言葉が脳裏を過ぎる。


 時を止めるなんて裏技もないわけではないが、その為には今展開している魔法を一度止める必要がある。同時発動はさすがにキツい。


 何より魔力の浸透は、意識の浸透とほぼ同義。

 魔力の供給を止めれば魔法も止まるというような単純なものではなく、部屋中に薄めて広めた意識の回収が必須条件。その為には数秒の時間が必要になるし、当然のことながら私の意識の影響下から外れた魔力からは情報が得られない。つまり、僅かな時間ではあるが確実に隙が生まれてしまう事になる。


 これは下手を打ったか、と思わず歯噛みしそうになった時に、それは起こった。


(動いたッ!?)


 アドラスの右手が動いた。


 視線を向けていなくとも、部屋中を漂う魔力からその様子が伝わってくる。


 危ういところだったが、どうやら我慢比べには勝てたらしい。


(魔法? 魔道具? なんにせよ、油断だけはできない)


 知覚を加速していなくても緩慢だと思われる余裕のある動作で、アドラスは右手を持ち上げた。人差し指でこちらの方を指さし、続けて動かした親指と併せて――。


 ――本の(ページ)を一枚、ペラリと捲った。


(………………え? それ、だけ?)


 魔力反応、無し。もちろん攻撃も無し。


 右手は既に元の位置に収まり、魔力が集まっている様子も見られない。

 念の為に確認した本にも魔力は込められていない。本が魔道具という線もなさそうだ。


 ……これは、どういう?


 ここにきて、私はなにか大きな思い違いをしている可能性に思い(いた)った。


 滲み出した冷や汗が頬を伝う。


 まさか。そんなはずはと思いながらも、警戒は怠らないまま、ゆっくりと首を動かして。

 私を罠に陥れようとしていたハズの人物を、改めて視界に入れた。


 そして見た。


 ――ヤツは私など眼中に無いとでも言うように、未だに本を読んでいたのだ。


 いや知ってたけどね? 本を持ってるのも見てるのも。でも私を油断させるためのポーズとか思うじゃん? だって隣に首枷嵌められたネムちゃん転がってるし?


 まさかまさかと部屋に入ってから今までの彼我の行動を思い返していると、不意に顔を上げたアドラスと目が合った。


 とても気まずい。


「なんだ、どうした? 目的の相手はそこにいる。好きなだけ話し合うといい」


 ……いや、気まずいのは私だけか。


 そりゃそうだよね。

 敵対してる、攻撃されると思ってたの、私だけだもんね。


 いやゆる一人相撲ってやつ?

 やーだぁソフィアちゃんったらおっかしーあははははー! ってなるかボケェー!!!


「いやなんで首枷!? あの魔法陣はなに!!? なんで物々しい感じでネムちゃん捕まえてるの!??」


 なんだこれ、なんだこれ!!

 思ったのとは全然違うけどすごい罠だよ完璧にはめられたよふざけんなだよ一発その顔殴らせろおっさん!!


 私の剣幕に、(わずら)わしそうに眉をひそめたおっさんは。


 床に横たわるネムちゃんをチラと見て、「ああ」と。


「静かだから忘れていた。そら、これが鍵だ」


 とても軽ぅーく、何かの鍵を投げて寄こした。


「わわっ」


 慌てて受け取りはしたけど、何の鍵よコレ。


 だがそれを問う視線を投げかけた時には既に、おっさんは本を読む体勢に戻っていて、全身から「面倒だから話し掛けるなオーラ」を出していた。


 ……は? 私が面倒かけてるっての?


 やっぱ殴ろうかなこの人。

「手が滑ったー」とか言って。


勝手に勘違いして勝手に緊張して挙句には逆ギレして。

楽しそうでいいですね。

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