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油断一瞬、炎上一瞬


 ネコミミカイルってどう思う?


 正直かなりアリだと思うんだよね! カイルの行動パターンってネコっぽいとこあるし!



 ――こんなに素晴らしい考えを思いついてしまったなら、普通はまず、想像すると思うんだよね。その人物の頭からネコミミが生えている様を。


 で、想像をしようとする時に本人が近くにいたなら、その顔を直接見ながらネコミミは脳内で補完しよーと思うのもまた、ごく自然な流れだと思うわけ。


 ネコミミとカイルは合いそうだなー。

 更におヒゲにネコ鼻、ネコ手袋なんてオプションまで組み合わせたら、思わず吹き出しちゃうかもしれないなー。


 ……なんてことばかりを考えていて、私がカイルの顔を見る=カイルからも私の顔が見えるということを完全に失念していた結果、油断しきった顔をカイルの前に晒した私にも問題はあったかもしれない。


 それでも、言い方ってものがあると思うの。


 いくら私視点のカイルがネコミミをピクピクさせていようと、ネコ鼻をスンスンさせておヒゲを揺らしていようと、冷めた視線で見下されて辛辣な言葉を投げつけられては魅力が激減なのである。


 そんなネコカイルくんのお言葉がこちら。


「またなんか変なこと考えてるだろ。キモい顔すんのやめろよな」


 これだよ!? これ!

 これが現実のカイルですよ! ひどくない?


 キモいとか言うのやめてよ! 傷つくでしょっての!


 相変わらず女の子に失礼なこの男は、もはや想像の中で辱めるだけでは足りないのかもしれない。


 いつか本当に女装させてやろうかと(よこしま)な考えに囚われていると、予想外の方向から追撃が来た。


「カイルくんひどい! 今のソフィアの顔、だらしなくてかわいかったじゃん! あれがキモい顔に見えるなんてカイルくんはどうかしてるよ!」


 前方でガールズトークに花を咲かせていたはずの女子が一人、カイルに突っかかっていった。

 世の中には嬉しくない援軍が多すぎると思う。


 ……にしても、そうかあ。だらしない顔してたかあ。


 これはちょっと、気を抜きすぎていたかもしれない。

 カイルの恥ずかしがる顔を想像していたはずが、実際に恥ずかしい目に遭っているのは私だなんて、あべこべだ。世の不条理を感じる。


 これはもう、世界のことわりを正常に戻す旅に出るしかないね。


 最終目標は、私が味わった以上の恥辱をカイルに与えることで世界のバランスを取り戻してのハッピーエンド。旅のお供は心強いクラスのみんな。

 悪辣なるラスボス、カイルを倒す為にその弱点を知る占い師エロイナさんを探す旅。俄然(がぜん)やる気になってきた。


 ……が、その前に。


「いや、それは違うぞ。コイツがだらしない時はもっと――」


「黙ろうかカイルくん」


「いってぇ!」


 人のプライベートな情報を勝手に広めようとしてるカイルの手の甲を、ぐいっと(つね)って口を封じておいた。


 未然に防げて良かった。


「なにすんだ!」


 だが痛みで目でも覚めたのか、今度は元気になったカイルが絡んでくるという事案が発生した。


 ままならないものである。


「ごめんね。カイルが酷いこと言うから、つい力が入っちゃったかも」


「爪立ててつねんなって言ってんだよ!」


 あっれーそんなことしたっけ? 記憶にないなあ。


 とにかくこれで、カイルの口から不用意な言葉が飛び出す危険は回避できたと思ったのだが……。


 やはり私はどうにも気が緩んでいるらしい。


 不用意にカイルで遊ぶとどうなるか。

 喉元を過ぎた朝の出来事など綺麗に忘れて、見事に同じ(てつ)を踏み抜いた。


「……やっぱりソフィアって、カイルにだけ態度が違うよね~」


 キラリと輝いた瞳にロックオンされたのを肌で感じる。


 いや、これだけ全力で「やっぱりそういうことなの〜?」って顔に書いてあるの見たら、一目瞭然ではあるんだけど。


「カイルとは幼馴染みだからね」


 努めて冷静に定型文を返しながらも、意識は他の子達の方に向きっぱなしだ。


 先程から話していた洋裁についての話題はまだ続いているものの、明らかに皆の意識がこちらを向いている。

 っていうか声量も下がったし、あと歩くスピードも下がってますよみなさん! もっとキビキビ歩きましょうよぉ!


 内心で冷や汗を流しつつ、徐々に狭まりつつあるこの包囲網の切り抜け方を考えていると、またもカイルが余計な口を滑らせた。


「幼馴染みってだけで毎回暴力振るわれてたんじゃ、っと。へへっ、同じ手は通じないぜ?」


「むむ……」


 二度目は脇腹にと伸ばした手は、目標を捉える前に回避と同時に捕まえられ、そのまま手首をしっかりと固定されてしまった。


 少し動かしてみたが逃れられない。素直に離す気は無いようだ。


 それどころか、掴んだままの私の手をまるで戦利品を見せびらかす様にしてドヤ顔で勝ち誇りだした。


 地味にムカつく……。


「……そういえば」


 そんなやり取りをする私たちに向かって、ポツリと。


「もしやソフィアさんが手を繋いだことのある男性は、カイルさんだけなのでは……?」


 また更なる燃料が投下された。


ツッコミは条件反射だから意志の力では止められないとかなんとか。

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