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かわいいカイルが見たーいなー♪


 恥ずかしい過去を大暴露されるカイルの姿を想像してニマニマしてたけどさ。


 よく考えたら「人の口にとは立てられない」ってそれ、私が被害者になる可能性もあるんだよね。


 なんたって私は、クラスのみんなにカイルとの仲を疑われている身。


 たったひとつの言動が致命傷になる可能性だってないとはいえない立場なのだ。


 私も用心しとかないとね。


 ゴホンとひとつ咳払いをして、表情と心を落ち着けてみた。


 取らぬ狸の皮算用、なんて事になったら嫌だからね。

 勝者は勝利が確定するその時まで、()みを隠しておくものなのだよ。うむうむ。


「……ソフィアは楽しそうだな」


 でもちょっと隠すのが遅かったらしい。

 隣を歩くカイルには、私が思わず笑みを浮かべていたところをしっかりと見られていたみたいだ。


 急に声をかけられてびっくりしたけど、でもカイルの反応を見る限りでは、想像上のカイルを(はずか)めていた遊んでいた内心が悟られたという訳でも無さそうだ。ならば何も問題は無い。


 いまは気分が良いことだし、笑顔を見られたのくらい許してやろう。


「うん。みんなが楽しそうだと私も楽しいよ♪」


 ……あれ? おかしいな。

 単なる言い訳のつもりだったのに、いま妙に声が弾んでた気がする。


 顔を触ってみると、自分の口が見事な弧を描いているのがわかった。そっと無表情になおしておいた。


 ……いや、どうしようこれ。

 無表情を維持しようとすると、口がなんだかもにょもにょする。


 まだ特別楽しい何かが起こったわけでもないのに自然と笑みが浮かぶこの感覚。


 今からこんな調子じゃあ、この後カイルの恥ずかしい話なんて聞いた時には我慢しきれずに大笑いしちゃうかもしれない。いくらなんでも楽しみにしすぎでしょ私。


 もう少し冷静にならないと……。


 こういう時には深呼吸だね。

 大きく息を吸って〜。吐いて〜。もいちど吸って〜〜、吐いて〜〜。


 ……うん。少しは落ち着いたかも。


 唐突に深呼吸をし始めた私の姿をカイルが(いぶか)しがってるのは極力無視して……と思ってた筈なのに、カイルの顔を直視した瞬間にまた変なスイッチでも入ったのか、頬がぴくぴくと動きたそうに痙攣し始めた。落ち着くどころか変な間を置いたせいで悪化した気すらする。


 これはもうダメだな。


 どうにも我慢できそうにない。

 ならいっそ、もう我慢することは諦めて、一度しっかりと妄想して満足する方針に切り変えるべきだろう。


 これぞ逆転の発想。


 我慢は体に良くないからね。

 もう徹底的に妄想して、余計なことが考えられないくらいの満足を得る。これしかない。


 そうと決まれば早速……あっ、その目いいねー。いただきました!



 ――胡乱な目で私を見ている、カイルのこの生意気な反応も。

 後に己が晒すことになる醜態を知らない哀れな獲物な最後の反抗だと思えば、どことなく愛らしく見えてくるものだ。


 今はツンと澄ましているその綺麗な顔が羞恥に崩れる様は、どれほど魅力的に映るだろうか。


 きっとカイルは恥ずかしさのあまり真っ赤になって、涙目になって。

 もしかしたら、情けなくも懇願を始めるなんてこともあるかもしれない。

「もうゆるして……」とか細い声で、無力な乙女のように許しを乞うこともあるかもしれない。


 女の子たちに囲まれて。恥ずかしい過去を暴かれて。好奇の視線に晒されて。各人の想像の中で辱められて。そして。


 許しを得る代わりに「なんでもする」という誓約を交わしたカイルを、私たちは着せ替え人形にして遊ぶのだ。


 その提案を聞いた時のカイルの顔を想像するだけでもう楽しい。


 悔しそうな顔をするかな? それとも、意外と期待してくれたりするかな?


 拒否権を失ったカイルを言葉を尽くして(もてあそ)びつつ、様々な女の子用の服を着せてとびきりかわいらしく飾り立ててあげよう。


 天使の様に清楚なワンピース。

 お人形さんの様に愛らしいフレアスカート。

 レースが綺麗なキャミソールなんてのも似合うかもしれない。

 なんなら背中を大胆に開いたパーティードレスも着せちゃおうか!?


 ああ、カイルお嬢様! 貴女の美しさは、なんと罪深いのでしょう!!



 ――お化粧まで完璧に施されて可愛らしく変身したカイルの姿を想像しただけで、私の腹筋はもう、限界だった。震え出さないように力を入れすぎたせいでちょっと痛くなってきた感じすらする。


 ああ、妄想って楽しいなあ。妄想の中のカイルはこんなにかわいいのになぁ。


 当初の目的通り、妄想世界のカイルを存分に堪能した私は深い充足感に満たされていた。


 あっ、そうだ。

 照れ照れになって弱ったカイルになら、もしかしてリンゼちゃん用に用意したあのネコミミ+ネコしっぽセットが似合うんじゃないか? カイルってちょっとネコっぽいとこあるし。


 ちょっとイメージしてみよう。なんて思いつつ隣を歩くカイルに目を向けると、いつの間にか可哀想なものを見る目で見下されているのに気付いた。


 それは、とってもひんやりした目だった。



 ……少しだけ落ち着いた。


「ネコちゃん変身セット」は非売品。

メルクリス家御用達の仕立て屋さんにソフィアがおねだりして無理やり作らせた特注品なのだとか。



……完成品を試着したソフィアを見て衝撃を受けた仕立て屋により、密かに次の作品が製造されている事実は、まだ誰も知らない……。

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