戦乙女をつくろう
中身が無い鎧が動くのならばそれはホラーである。
私は別に、動く鎧を実用化してこの家をお化け屋敷にしたい訳じゃない。
おじいちゃんがガションガション鳴らしててうるさかった印象が強いけど、あのふんぞり返ったポーズは様になってた。
あれをこう、ね。部屋の隅に置いたらね。
フェルとエッテの遊び場としていいんじゃないかと思って。
猫カフェって行ったことはないんだけど、テレビで見た感じだと猫達の遊び場みたいな塔があったりするじゃない?
思えばフェレットにも遊具は必要かなって。
私の言葉は伝わるけどフェル達の言葉は私には通じないから、飼い主としてちゃんと気を配ってあげないとね。
よく私の体に登ってくるから登るのが好きなはずだ。
ん、だけど表面が金属だと登りづらいかな? それともツルツル感も楽しんじゃう? うーむ分からん。見た目を損なわない程度に革っぽい素材で肩までのルートを用意しよう。
頭はこだわりたいよね!
おじいちゃんの被ってた兜だとシンプルすぎてつまらないからとりあえず装飾増やして、後はそうだな、単眼にしてみようかな。
……鳥の巣の入り口に見える。
いっそ巣穴の入口にするか。
頭部の中に一部屋作って、そこから胸の部分の大部屋に繋がる縦穴を。
胴体部分が大分余るのは滑り台にでもしちゃおうかな。
ちゃんと採光用のスリットを入れて、くるくるっと螺旋状に滑り台を、っと、出口はどこに接続しようかな。
ん、んー。いかん。胴体を通って出てくる場所ってひとつしか思いつかないけどそこだけは嫌だ。でもそこより下は脚部しかない。
まぁいいや、脇腹に穴あけとこ。で、穴から接続する鞄でもぶら下げて隠せば、ほら! 鞄から顔を出す愛くるしいフェレットの図! うんうん、なかなかいいんじゃない?
あとはやっぱり動かしたいよね!
関節部は動くようになってるから私が魔法を使えば動かせるけど、それじゃ面白くない。
もっとロボット的な、自立型AIとか積みたい。作れないけど。作り方も知らないけど。そもそもAIってなんの略だ。オート……意識? いや日本語なわけないな。
ん? そういえばあるじゃん、意識。
これメリーとマリー乗せたらいいんじゃない?
ただそうなると動力をどうするか。メリーとマリーは魔法使えたり……しないだろうなあ。
なにか電池的な物……魔石? そういえば魔力貯めておけるって言ってた。
「お母様〜」
困った時はお母様だ。魔法に関する知識が豊富で実に助かる。
話をまとめれば、魔石はやっぱり電池だった。古くなると中身が漏れてくるところまで同じとか完全に魔力電池。
動かすのには魔法陣を勧められた。
が、魔法陣を描くのに必要な粉はなにやらお高いらしい。
試しに地面に図柄だけ書いてもらった。
うん、全然分からん。
動かすのはいいや、難しそうだし。
とりあえず完成かな?
「フェル、エッテ。遊び心地を試してきて」
「キュウ!」「キュイ!」
私の合図に元気よく答えたフェレット達は早速突撃していった。
「あれで完成なのですか?」
「一応ですけど」
見た目はただの片膝をついた騎士甲冑だ。肩から提げた鞄がちょこっとシュール。あとでデザイン変えよう。
具足にもラインが入っていい感じ。鎧にも立派なマントを付け足したし、頭には大きな羽飾りと、後頭部から伸びる綺麗な金髪。
なお腰から下げる予定の聖剣はデザインを鋭意製作中なので今あるのは鞘だけだ。
「タイトルは『ヴァルキリー』です」
「はあ」
ヴァルキリーと呼ぶにはまだ威圧感が足りない。プロトタイプってところかな。
鞄から顔を出したフェルがまた頭に向かって駆け上っていった。
エッテは……首のところから顔を出していた。あそこは大部屋の窓かな。
二匹とも気に入ってくれたようで何よりだ。
「終わったのなら今日は戻りましょう。後で報告書を書いておいてくださいね」
「うっ……はぁーい」
お母様と魔法の開発をすることになって一番面倒なのがこの報告書の作成だ。
曰く、研究者として研究内容を文面に残すことが大切なのだそうなのだが、私は研究者になった覚えなどない。そう主張したところで聞き入れてはもらえなかったけどね。
面倒くさいことは全部後回しにして、とりあえず今は楽しそうにしているフェルたちを眺めて癒されることにした。
あー、今日の晩御飯はなんだろうなー。
お母様の研究好きは、ソフィアの謎魔法だけでごはん3杯はイケるレベル