カレンちゃんとおしゃべり
ネムちゃんに指定された場所は想像がついたけど、いつ何時に来て欲しいという指定はなかった。
なので早い方がいいかなーと思って、とりあえず向かってみたのよ。
そしたらさー。当然のようにネムちゃんいなかったんですよお。
それどころか部屋にいたアドラスのおっさんにめっちゃ警戒されてさ、やたら険しい顔で「何しに来た」って睨まれたんですよひどくない? まあ事情を話したらびっくりするくらい同情的になったんですがね。
あの地図見せたらまた放課後に来いって言われたんで一時退散。
私は見事に無駄足をふむ結果になりましたとさ。
「というわけで、ネムちゃんとは会えなかったよー」
「そうなんだ……」
教室に戻って、のんべんだらり。
カレンちゃんにご報告をしていた。
「そもそもネムちゃんはなんの用だったんだろうね?」
っていうか授業中もいないし、今日ネムちゃん休んでるよね?
ネムちゃんは日中休んで放課後だけ登校、なんてことするタイプじゃないと思うんだけど。放課後にあのおっさんのところへだけ顔を出すってのもなぁ……なんかそれは、私が嫌だな。
女の子が放課後に密室でおっさんと、なんて犯罪臭しかしないし。
どうせなら私らと市井のパンケーキ調査とかに赴いた方が、街ゆく人達の目の保養にもなっていいんじゃなかろうか。
貴族の子女レベルの美貌で「このパンケーキ美味しいねー!」なんて言ったらそれだけでお店の宣伝になりそうだし。
なんなら街から助成金とか出して「見目麗しい学生の買い食いはタダ」みたいな決まりを作ってくれたら、それだけで街が華やかになったりするんじゃないかな。そしたら毎日街に行って買い食いとかするのに。お母様だって頑張って説き伏せるのに。
……お菓子のことを考えてたらお腹が減ってきたぞ。
あれ? そもそもなんでお菓子のことなんか考えてたんだっけ? 最近パンケーキ食べてないからパンケーキ欠乏症にでもなったかな。こりゃ大変だ。
今日のおやつはパンケーキにしてもらおーっと。
「用件まではわからないけど……」
アホなことを考えてたら、カレンちゃんが心配そうな声音で何やら話し出した。
そういえばネムちゃんの用事について尋ねたんだっけ? すぐ思い出せて良かった。
「なんだか、大事な用だったみたいだよ」
「そっかぁ」
なんだか深刻そう……に、言ってるけどさ。でもそれって、つまりは何もわからないってことだよね。
優しいカレンちゃんが心配するのは当然かもしれないけど、でもほら、ネムちゃんっていつでも全力で生きてるからね。ネムちゃんにとっては大事な用なんだろうな、って感じにどうしてもなっちゃうというか。
時間指定の無い呼び出しとか難解な地図とか見せられてるぶん余計にね?
だから、まあ……ほどほどの心構えでいいかな。
これが他の人からの用事だったらある程度推察もできそうなものだけど、ネムちゃんのは無理!
あの子アリの行列見つけただけで騒いだりするし、かと思えば鳥にフンをぶつけられて喜んだり、カエルが顔に飛びついてきても喜んだりするからね。行動も思考も、読もうとするだけムダってものだ。
だからもう、違うことを考えよう。
今日のおやつはさっき決定したから、次は、うーんと。
……そうだ。成長期である私たちの、生活習慣の違いについてとかどうだろうか。
ちょうどカレンちゃんにこれ、聞きたかったんだよね。
「ところでカレン。……また、背が伸びたよね?」
「え? うん……?」
やっぱりなーーー!! なーんか見上げる角度がきつくなった気がしたんだよねー!
胸も順調に育ってるようで羨ましい限りですよホントにもーその成長率の秘密を知りたいッ!
荒ぶる心は羨望の証。
羨む気持ちもあるけれど、それより何よりその理想的な成長の仕方を是非私の体でも再現させてもらいたいという気持ちが口から勝手に溢れ出ていた。
「やっぱり運動? よく食べてよく寝るとか、夜更かしはしないとかそーゆーの? 沐浴の時にマッサージとかしたりする?」
「え、えっと……」
っと、いけない。少しがっつき過ぎたか。
でもでも、運動も朝晩してるし、栄養バランスを考えた食事も規則正しい生活もきちんと習慣付けて、ぜーんぶ実践してる私がこのザマなんだもん。焦るのはしょうがないと思う!
実はこの世界には私の知らない謎の栄養素があって、それを摂らないと成長がある段階で止まってしまうだとか言われた方がいっそ納得出来る。そんなファンタジーでもあるんじゃないかと疑ってしまうくらいには私の明らかに遅い成長速度って異常だと思うの。
だってこのクラスで私の次に背が低い子との身長差が十センチ近くあるんだよ? おかしくない?
胸はいいんだ。仲間がいるから。
でも身長は納得いかない。
「どうしたらカレンみたいに、背が伸びると思う?」
私にとっては切実な願い。
問われたカレンちゃんは少し考えたあと、「ソフィアは、そのままでかわいいよ……?」と答えた。
嬉しいけど、そうじゃないんだよなぁ〜……。
小さいはかわいい。それもまた一つの真理。
それでも、隣の芝生は青く見えるものですから。




