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授業は安らぎ


 授業を挟むと、朝の盛り上がりは嘘のように静かになる。


 初めは驚いたこの現象も「過ぎた話題を掘り返すのは好ましくない」とされる貴族的な教育によるものと今では理解しているが、それより先に、人の恥ずかしい話を根掘り葉掘り聞き出そうとする方を咎めるべきなんじゃないかと今でも思う。思うから、友人に直接その疑問をぶつけたこともある。


 そしたら「だって気になるじゃない」と悪びれるでもなく言い切るお嬢様方に逆に気圧されたというね。


 非礼は承知の上。

 だからこそ限られた時間の中で済ませるようにしているのだと、いっそ誇らしげに言われましたからね。


 逆に時間を区切ったせいで尋問が苛烈になってるんじゃないかな? そこのところどう思う? と、それとなーく伝えてみたところ、「さっさと言わないのが悪い」んだそーですよ。笑うしかないよね。


 普通は尋問なんかしなくても普通に聞けば答えるしそれで終わりなんだけど、私の場合は変に抵抗するせいで妄想が膨らむというか、聞き出すという行為自体が楽しくなっちゃうんだってさ。


 気持ちは分かるだけに文句も言えない。


 でも他の人のように素直に吐露することもできない。だってこの子ら、本当になんでも聞いてくるんだもん!


「初めての××はいつだった?」だとか「一人でする時は何使ってるの?」とか「家族のを見た?」とか「教室だと誰を」とか「あの空き教室で」とか「昨日は何回」とかもうね、聞いてるだけでも恥ずかしいのよ! 風紀の乱れが酷いの!!


 幸い今では私がそういう話題が苦手だって知られてるから、あんまりその手の話は振られなくなったけど。


 普段聞かれないのは我慢してるだけで、実際は「すごく聞きたい。ソフィアのあれこれ、とっても知りたい知り尽くしたい!」状態らしくてね。溜め込むと朝みたいにちょっとの刺激で爆発しちゃうんだってさ。一生(くすぶ)ってればいいのに。


 だから一度発散させると、ある程度は落ち着く。


 それが唯一の救いなんだよね。




「朝は災難だったわね」


「ミュラーも聞き耳立ててたでしょ。いたの知ってるんだからね?」


 とはいえ、二度と話題に出しちゃイケナイという明確な決まりがある訳でもない。


 親しい友人同士で話題にすることもあれば、そこで盛り上がっちゃって、再度……となることもないでは無い。


 大切なのは、たっぷり私らの反応を堪能して満足した彼女たちに、「もしかしたら朝の続きが見られるかも」なんて気分にさせない事なのだ。


 だから恥ずかしがるのなんて問題外。


 授業が終わった途端に突っ伏したカイルだって、別に顔を隠してるわけじゃない。


 あれはただの不貞寝、いや居眠りだね。

 もーカイルってば、いつまでもそんな様子じゃ不自然でしょー? いつもみたいにウォルフとおしゃべりでもしてればいいのに。


「あ、バレてた? ごめんなさいね、でもやっぱり気になったから」


「いいけどね」


 ミュラーは朝、私たちを囲む輪の中にはいなかったけれど、別のグループに混じって時々こちらを気にしてたのは気付いてた。大方普段の私たちの様子でも聞かれてたんだろう。


 そもそもクラスの真ん中で騒いだからみんなに知られてて当然、てゆーかクラス中どころか、教室の外でも聞き耳立ててる人いたからね。


 声を掛けたら逃げられちゃったけど、噂ってこうやって広がっていくのかなぁとなんともいえない気持ちになったよね。


「でもあんまり人に言いふらさないでね。面白おかしく誇張した話とか広めないでね?」


「? そんなことしないわよ」


 だよねぇ。する方が変なんだよねぇ。

 でもミュラーって思い込み激しいし、無自覚にそーゆーことしそうだから、できれば気を付けて欲しいなぁ……。……無理か。


 無理なものは無理と諦めて、さっさと話題を変えることにした。


「ところで、何か用があったんじゃない?」


 さっきからミュラーの後ろでカレンちゃんがタイミングを伺ってるんだよね。


 別に取って食うような真似しないのに。


 だいぶ仲良くなったと思ってたのに未だにそんな反応されると、ソフィアさん悲しいです。


「ああ、そうなのよ。カレンが、と言うか……」


「あっ、うん! あのね」


 なんかせっかく貯めたカレンちゃんの好感度、全部ミュラーに吸い取られた気分だよーぅ。


 最近二人で毎日剣術の練習してるらしいから、当然っちゃ当然なんだろうけどさ……なんだか寂しいよね。


 ミュラーが促すと、命令され慣れた感のあるカレンちゃんは手に持った封書を私に差し出してきた。


「これ、ネフィリムさんから。ソフィア宛にって」


「ネムちゃんから?」


 そんなの直接言えばいいのに……って、そういえば今日はネムちゃん見てないな。休みかな? いや、それだとこの手紙はいつカレンちゃんの手に渡ったんだって話になるかな?


 ううむ、さすがネムちゃん。

 お手紙ひとつに謎がたっぷりである。


「なんだろ」


 あ、もしかして。

 魔族の街に案内してくれる日程でも決まったのかな?


ネムちゃんの師匠に「魔族の街に行った時には何か奢って」と約束させた未履行の契約がある。

なお奢らせる範囲についての明確な取り決めは無かったが、ソフィアの中では既に「ネムちゃんと私の分の滞在中にかかる費用全て」という認識になっている。鬼か。

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