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キスの話……本当に?


 キスが上手いというのは、アドバンテージである。


 だって考えてもみて欲しい。

 ろくに娯楽がないこの世界で、強烈な快感をもたらしてくれる人というのがどういった目で見られるのか。


「噂になってたゲーセンに行ってみたんだ〜」程度の感覚で、噂の上手いキスとやらを体験したがる人はそれなりにいると思う。だって信じらんないくらいみんな、性経験が早いのだ。


 だからキスくらい、渋るほどのものでもない。


 キスなんて、ただの好意を示す手段であると同時に相手にも好意を向けてもらえる簡単な方法。そのくらいの軽い認識なんだから。



 ――そんな子供でも経験済みで当たり前の、唇を重ね合わせる程度のキスすら私がしたことないと言ったもんだから、このクラスの人達はまるで奥手な妹の成長を見守るかのように、私の恋愛に首を突っ込んできては一喜一憂するのだ。


 とてつもなく余計なお世話である。


「へぇ、カイルってキス上手かったのか」


「そうなんだ? へー、意外ー。上手い男の子ってそういうの自慢するものかと思ってた」


「それは女子もだろ。ほら、普通クラスにも有名なのいるじゃん。何人も男を骨抜きにしたとかいう」


「ああ、エロイナさん? 彼女は凄いらしいわね」


 でも今日ばかりはそのお節介が頼もしい。


 一つ言葉を投げただけで勝手に盛り上がり、放っておくだけで簡単にカイルの弱みが転がり込んでくるのだから笑いが止まらない。


 私はただ、カイルがより強く反応した言葉を繋ぎ合わせて作った言葉のナイフで、的確に急所を突くだけでいい。


 簡単なお仕事、ってやつだ。


「カイルもそのエロイナさんのお世話になったの?」


 ゴン! と鈍い音が響いた。


 カイルが机に向かって顔面を突っ伏した音だった。


「へー……。カイルくんも意外と……」


「カイルざまぁ!!」


 ぷくくくく。楽しい、楽しいよこれ。


 真っ赤になった顔を必死に隠してぶるぶる震えてるカイルのなんと哀れな事か! まさにカイルざまぁ!

 声に出して同調はできないけど、もっと言っておやりなさい! これが私を売った罰だと思い知るがいい!!


 赤くなった耳をつーんつんして遊んでたら腕で払い除けられ、そのまま腕枕するみたいにして完全に顔を隠されてしまった。あらら残念。


 でもその程度で逃れられると思わないことだね。


「ふーん。カイル絡みの恋愛の話ってあんまり聞いたことなかったけど、そういうことだったんだね。知らなかったなぁ」


「違う!!」


 ほら起きた。


 ささ、その勢いのまま、適当に言ってみただけの「そういうこと」が一体全体どういうことなのか、自らの口から事細かに説明してもらいましょーか。


 大丈夫。ちゃんとカイルが話しやすいように、適度にいい感じの相槌うってあげるからね!


 あまりに想定通りの反応にほくほくの内心を隠しつつ、ドキドキワクワクのその先を堪能するべく「違うって、どういうことなの……?」と大声に驚いた気弱な少女は瞳で訴えかけますヨ。


 さあ、カイルよ。では張り切ってどうぞ!


「そうだよねぇ。ソフィアに勘違いされるのは辛いよねぇ」


「あら、本当に勘違いなのかしら? カイルさんがだらしないだけなのではなくて?」


「いや、俺はカイルを支持するね。やっぱ男としては経験積んで自信付けときたいだろ。本命の前でカッコ悪いところは見せられないからな」


「うーん。たしかに、いざ! って時に慌てすぎて失敗なんかされると頼りないなぁって気はしちゃうけど。それはそれで可愛かったりもするよ?」


「でも初めての相手にはやっぱり特別な感情を抱くものだからねー。ロマンチストなソフィアなら、相手にも初めてを求めたりしそうじゃない?」


「ありうるー!」


 ものすっっっごい邪魔が入った。


 ちくせぅ。後一歩だったのに。


「ねーねーソフィア。実際どうなの?」


 カイルはみんなの興味が自身から外れたのに気付くと、さっさと元の体勢に戻って完全にたぬき寝入りを始めてしまった。


 あーなるともうダメだね。


 というかもうカイルとかどうでもいい。私がピンチだ。


 えっと、何の話だっけ。ああ、ファーストキスは大事だよね。


「そうだね。初めて同士だとロマンチックかもね」


「やっぱり!」


 とりあえず無難に答えておいた。


 夕暮れに沈む二人きりの教室。初めての告白。重なる影。なんてテンプレだよね。


 その後、お互いに「実は初めてなんだ」って恥ずかしげに笑いあうのも、うん。かなりいいんじゃないでしょーか。


「でもソフィアが素直に答えてくれるのって珍しいね?」


「そう?」


「そうだよー」


 そうかな?

 いくら私だって、初キスの話題くらい別に……と考えて、恐ろしい可能性に気付いた。


 ――これ、本当にキスの話?


 だって、今まで舌を絡めるのが上手い下手って話してた人達が、今更キスくらいで……。


 いや、やめよう。これ以上考えてはいけない。


「今なら何でも答えてくれるみたいだし、この機会に色々聞いちゃおうかなー?」


「もう答えたくない」


「え!?」


 それだけ言い捨てて逃げ出した。


 逃亡は成功した。


逃げ出す判断が、あと数秒遅れていたら……。

もしものえっちぃ質問責めを妄想して頬を染めるソフィアさん。むっつりー。

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