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付き合ってないって言ってるのに


 彼女らも、ようやくここが人の目のある教室内だと思い出したらしい。


 話す内容が過激になるにつれ、多少声を潜め始めた。


 でも逆に言えばそれだけだった。


「カイルくんもエロイナの毒牙に……」


「彼女が評価したということは……」


「超絶テク……女泣かせ……」


 ひそひそひそひそ。


 ニヤついた笑みを浮かべ、何かを妄想し、ときおり意味深な言葉を呟いてはほのかに頬を染める乙女たち。


 完全に、怪しさ満点の集団だった。


 私? 私は怪しくないよ。


 ()いて言うなら、私は……。

 ……彼女たちが暴走しないか見張ってるって感じかな、うん!


 言っても止めらないことは目に見えてるから、本当に見てるだけだけどね!


 それでもひとつだけ確かなことは、私の手は未だにしっかりと捕まえられていて、この場から逃げ出すことは許されていないということだけだ。


 もう私必要なさそうだし逃がしてくんないかな。


「ソフィアさんは何か知りませんの? カイルとよく一緒にいますわよね?」


 そんな事を思ってしまったからだろうか。

 暇そうな私に気をつかったのかは知らないが、怪しげな話に参加するよう求められてしまった。謹んで辞退したい。


「カイルの女性遍歴なんて聞いたことも無いよ」


 っていうかそーゆー相手がいたんだねアイツ。結構びっくりなんですけど。


 カイルとはお互いの家に行ったりする程度の仲ではあるけど、お互いのプライベートまではそんなに……いや、待てよ。私はカイルのことあんまり知らないけど、カイルの方には割と色んなことを知られてる気がする。


 まあ、それもある意味当然かもしれない。


 知る機会は均等にあったかもしれないけど、私、カイルのこととかあんまり興味無いし。あの迷惑小僧の弱みとかなら大いに興味あるけどね。


 だから本当にヤツの性的な経験がどうのとかは知らないんです。

 そんな「え、知らないの? 嘘でしょう?」みたいな顔しないでよ。知ったところでどーすんのそんな情報。いらないでしょ? ていうか別の話しよ? そうしよ?


 そう思いはしても口には出さない。心の中で願うだけだ。


 実際に口にして、また「話を逸らそうとしてる? あやしい!」とか言われたら堪らないからね。


「ソフィアさん。寛容なのは美徳ではあるけれど、時にはしっかりと手綱を握っておかないと。男性なんてすぐに他所(よそ)の女のところへ行ってしまいますわよ?」


「寛容とかじゃないです。カイルとは付き合っていないので」


 ただ、どれだけ気を遣った発言をしようと、彼女らにはあまり効果はなかったりするんだ。


「そうだよね。()()、付き合ってないんだもんね」


「ソフィアはまだ自分の恋心が分からないんだもんね〜?」


 楽しそうな空気でも感じたのか、カイルのテクがどーのと恥ずかしい話をしていたはずの二人が突然に話に加わり、私の言葉を勝手に解釈しだした。


 ……いや、全く。

 彼女たちには、私は一体どんな姿に見えているんだろうか。


 どれだけ言葉を尽くそうと。


 どれほど否定を重ねようと。


 私の言葉は、誤った解釈をされる。


 彼女たちから言わせれば、私がカイルとの関係を否定するのは気恥(きはずか)しさから来るもので、自らの恋心を自覚していないが故の行動らしい。 


 不思議だよね。

 同じ言語で話してるはずなのに、言葉が通じないなんてさ。


「まだも何も。私の愛は生涯、お兄様だけに捧げると決めていますから」


 ただ一人だけを、一生愛する。


 何度も言っているのに、この決意がどうして伝わらないのだろうか。


「だからねソフィア。それは愛は愛でも別の愛なの」


「でもその気持ちは分かるな〜。あたしもロランド様と一緒に暮らしていたら、他の男なんて恋愛対象になんてならないかも」


「比べる相手が悪いのよね……」


 まあ理解はされなくとも、お兄様とはあまり接点のないこのクラスにもお兄様の素晴らしさを布教できたのは良かったかな。


 そう、別にカイルが悪いわけじゃない。

 お兄様が圧倒的に素敵すぎるだけなんだ。


 実際にカイルが恋人だったら……とか想像したこともあるけどさ。みんながあんまりにも言うもんだから。


 でも正直カイルって、子供っぽすぎて私の趣味じゃないんだよね。


 カイルが私と付き合うなら、もっとこう……と想像を膨らませながらカイルのいる方へと顔を向けたら、こっちを見ていたカイルとばっちり目が合ってしまった。


 ああそうそう、あの睨むような目も地味に疲れるんだよね。


 ……ていうか、なんで私睨まれてんの?

 人身御供に差し出された私が怒る理由ならあっても、カイルに怒られる理由なくない?


 訝しく思ってよくよく観察してみたら、カイルの表情からは焦りと不安、そして溢れ出そうになる羞恥を睨むことで隠そうとしている感情が読み取れた。読み取れてしまった。


 ……なにか楽しそうなことになりそうな予感!


 私は絡み合っていた視線を切ると、親愛と情愛の違いについて語っていた乙女たちに提案を持ちかけた。


「ねぇ、カイルたちの方と合流しない?」


乙女らしさとはなにか。

少なくとも、特定の男子について語り合い、ぐふふと笑うことでは無いと思う。

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