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良い事フィーバー


 楽しそうなお母様に釣られて予定外の診察となったけれど。

 お母様も見ている以上、簡単に済ませると文句を言われそうな気もする。


 なのでそれっぽいことを言いつつ手抜きをすることにした。


「身体を動かせるようになる為には、自ら動かそうとする意思も大切です。私のペットを預けておきますので、この子の動きを目で追ったり、触れられた身体の部位を動かそうとしてみたりして下さいね。それじゃエッテ、よろしく」


「キュイ!」


 癒しと言えばエッテさん。治療と言えばエッテさん。


 アイラさんの筋力不足の問題はエッテの謎パワーであっても一瞬で治せたりはしないみたいだけど、やる気はあるらしいから何かしら出来ることはあるんだろう。ということで私がいない間、適当に治療をお願いしておいた。


 ……下手したら夜には完治してるなんて事もあるかもしれないけど、その時には目の前でのやり取りを止めなかったお母様にも責任があるということで、説得上手なお母様に何とか誤魔化してもらおう。


 困った時はお母様。

 我が家の常識である。



 ――そんな頼り甲斐のあるお母様だけど、実は相当なシスコンである可能性が浮上した。


 短時間ながらも日課の鍛錬をした後、身体を流してから食堂に行ったんだけどね。


 今日はお母様はアイラさんの部屋で一緒に食事するんだって。お父様が微笑ましそうに言ってた。

 私も微笑ましくなっちゃう。


 朝の可愛らしいお母様を思い出しながらにこにこしてたらお兄様に「今日は機嫌が良さそうだね」って言われて更にテンション上がったし。


 昨日学院サボって良かった!





 良い事フィーバーは学院でも続いた。


 いや、良い事というのとは少し違うか。

 今まで悪いと思っていた事が、実はそう悪い事じゃなかったと気付いた。


 これはそういう話だ。


「カーイルっ」


「…………なんだよ」


 カイル。私の幼馴染み。


 喧嘩をすれば大体負けると分かっているのに、突っかかってくることを止めないアホの子。バカ。

 女の子に泣かされるのが好きな変態。


 私は長年、カイルのことをそう評価してきた。


 でもその認識は間違いだったと、私はついさっき気付いたのだ。


「カイルのばーか」


「……さっきからどうした? お前の方がバカみたいに見えるぞ」


 ほらほら、この反応!

 おじいちゃんの家にいた変態とは違う! これが普通の反応! 普通の対応だったんだよ!!


 幼い頃から、手痛い反撃を受けると分かっていながら執拗に私に付きまとってイタズラを仕掛けてきたカイルは、むしろその仕返しを期待してる大変な変態なんだと思ってた。

 虐められれば虐められるほど喜ぶマゾ性癖の持ち主で、私みたいな美少女に手酷く扱われる事こそ生きる喜び的な度し難い変態だと思ってた。


 でも、違った。違ったんだよ!!

 カイル程度を変態だなんて、とんだ過大評価だった!


 本物の変態を知った今、私はカイルに対する申し訳なさでいっぱいである。


 真の変態がどれほど変態で、変態なんて言葉では表せないくらい人の域から外れた変態なのかを知らなかった昔の私が言った事とはいえ、今までカイルのことを変態と呼んでしまっていたこの事実。


 ごめんよ。私はただ、知らなかっただけなんだ。


 まさか「変態」という言葉が、あんな身の毛もよだつおぞましい存在を指すなんて思ってもいなかったんだ。


 誤解とはいえ、カイルのことをあんなヤバい存在と間違っていたこと、本当に反省してる! ごめん! ごめんね……!


 という万感の思いがつい零れた。


「カイル、ごめんね」


「昨日何があったか知らないけど、もう少し休んでた方がいいんじゃないか?」


 その気味悪がってる顔が愛しく見える。


 カイルが本物の変態じゃなくて、本当に良かったよ……。


「カイル、自信を持っていいよ。カイルは変態じゃないって私が保証してあげるか、らっ!?」


「ちっ、避けたか」


 危なかったァ、急になにすんの!? 乙女の顔にパンチとか神経疑う!


「ちょっとカイル……、う、ぅ」


「おう、おはようソフィア。ちっとは目が覚めたかー?」


 文句を言おうと顔を向けた途端、カイルの顔がどアップで近づいて来て勢いを()がれた。っていうか、おでこ、当たってるぅ……。


「……別に寝てないし」


 至近距離にある瞳を睨みつけてやっても、怯んだ様子はない。


 ぐぬぬ。これだから幼馴染みってやつはぁ。


「そーかそーか。ならやっぱ喧嘩売ってたんだろ? 殴ろうとして正解じゃん」


「そんな正解ないから」


 おでこぐりぐりすんの止めい。との意思を込めて、反撃のぐりぐり。


 なんで反撃するのかって?

 先にやめたら負けた気がするからだよ。


「悪いな。ソフィアのデコって叩きやすそうでさ」


「はぁ? はあぁ? どんだけ失礼なの。ってか押してこないでってば」


「そっちこそなんで押してくんだよ」


「いいからやめて」


「そっちこそ」


 ぐりぐり。ぐりぐりと。

 何故かおでこでおしくらまんじゅうを始めてしまった私たちは、大切なことを見落としていた。


 今がいつで、ここが何処なのかということを……。


上から押すな。上から押すな!背が縮む!!

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