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溢れた想い


「っ、はぁ……」


 あー。痛かった。


【読心】を使った瞬間に溢れた痛みは、魔法を止めればすぐに原因が分かった。


 あれは「想い」だ。


 めちゃくちゃ重い「想い」だったね。


 突然だった驚きと痛みが引けば、脳裏に残ったのは自分のものでは無い「感謝」と「ありがとう」の気持ち。


 伝えたいのに伝える術が無いからと、溢れんばかりに溜め込まれた「感謝」の気持ち。

 口にして伝える事は叶わないからと、心の中だけで繰り返し続けた「ありがとう」の気持ち。


 圧倒的な感謝と、伝えられない悔しさと。

 ソワレさんへの想いから、お母様への想いまで。


 本来なら伝わるはずのなかったそれらの想いを全部まとめて「どうぞ聞かせて!」とばかりにうっかり受信しちゃったもんだから、私の頭の中に一気に、一斉に、まるで洪水のようにどわーっ! っとなだれ込んできたってわけだね。なるほどなるほど納得した。納得はしたけどびっくりした。


 はー。まだ頭の中混乱してるわー……。


「……」


 あ、しまった。

 アイラさんの身体の調子を見てる途中だったの忘れてた。


 お医者さんに「これから触診しまーす。痛かったらごめんなさいねー」って言われて覚悟しながら触れられた次の瞬間、何故かお医者さんの方が大声上げて急に痛がりだしたら、私ならどうするだろうか。

 とりあえず「私じゃない!」って叫ぶかな? 逃げるって選択肢もありかもね。


 今のアイラさんもまさにその状況なのに、悲しいかな、彼女は喋ることも動く事もできないまな板の上の鯉状態。


 たとえ私に冤罪をかけられたって弁明すら許されない、圧倒的な弱者なのだ。


 その恐怖は計り知れない。


 ……それに今って、震えることさえ出来なさそうだしね。

 私筋肉鍛えてて良かった。


「急に叫んでごめんなさい。もう大丈夫です、続けますね」


 いやーほんとごめんね。


 割と気楽にアイラさんの治療引き受けたけど、もうちょっと真面目にやる事にしたから許してね。


 魔力の膜による診断を再開しながら、私は改心するに至った、前世でのとある恐怖の一幕を思い出していた――。



◇◇◇



 パンケーキ。生クリーム。アイス。ショートケーキ。


 連日のように甘い物を食べまくっていた私は、当然のように虫歯になった。


 虫歯になったら歯医者に行く。


 私はその日まで、歯医者なんてどこでも同じだと思っていたんだ……。


「痛かったら手を上げてくださいね」


 歯にドリルと聞けば怖くはあるけど、麻酔の注射だって耐えられた。麻酔が効いていれば大したことはないだろうと軽く考えていたが、甘かった。


 すーぐ痛くなったね。


 だから手を上げたのよ。言われた通りに。そしたらヤツはなんて言ったと思う?


「少し我慢しててくださいねー」


 もうね、馬鹿かと。アホかと。


 確かに。

 確かに手を上げたら止めるとは言われてない。


 でも普通止めない??


 我慢させるだけなら初めに言っておけよと。段階踏む意味はなんなんだと小一時間問い詰めたい。


 いよいよ痛みが激しくなってきて、もう無理我慢できない! ってんーんー唸りながら手を上げまくった時も、ヤツはね。


「もう少しだから我慢してねー」


 患者も人間だって分かってます?


 ふざけんなああああ!! って思ったけど、弱点握られちゃってるしさ。下手に暴れてドリルが変な場所に当たっちゃったりしても怖いじゃん? だから後で文句言ってやろうと思って秒数数えることにしたんだ。「何がもう少しだ全然少しじゃないじゃん!!」って文句言う為に。


 そしたら七秒だったの。


 どう? この数字。


 遊んでる時の七秒ならすぐだけど、口の中にドリル突っ込まれて頭の中にウィーンって音が響いてガガガッて歯が削られる音を聞きながらの七秒だったの。ちなみに三回目の「もう少し」を言われてから七秒ね。


 これって「少し」かなぁ? 微妙なとこじゃない?


 怒りも不満もあるけど、怒りを爆発させるにはちょっと……ってモヤモヤしてたのね。


 そしたらヤツは、処置が終わったはずの私の歯を見ながら言ったのさ。


「あ」って。


「あ」ってなんだ。なにが「あ」なんだ。ふざけるんじゃないよ。


 その後もちろん、また削られましたよ。


 ろくな説明もせず「大丈夫だから。もうちょっとやろうね」って明らかに何かを誤魔化してるような感じだったよ。


 何が大丈夫なのか。

 延長料金もらったってお断りしたいくらいだってのに何が大丈夫なのか。全然大丈夫じゃないよ!


 ちなみに大丈夫らしいその二回目の治療は全体で三十八秒かかりました。


 学校で悪評ばらまいてやったわ。



◇◇◇



「よし」


 だから私は「あ」なんて言わない。

 自信を持って「()し」と言うのだ。


「身体の方は問題なさそうですね。ソワレさんに手伝ってもらいながら身体を適度に動かして、よく食べて、よく寝て。そうすれば次第に動けるようになるでしょう」


 私はあんなヤブ医者とは違う。


 未来と才能があって治療もできる、万能系美少女なのだから。


たまには「私は美少女」と自己暗示掛けておかないと、すぐに残念系駄少女になっちゃうからね。

がんばれ美少女(笑)。

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