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父娘喧嘩から逃げた先で


 二人の喧嘩が終わるまで何処で時間を潰そうかとウロウロしてたら、窓の向こうに、どこか見覚えのある人が立っているのに気付いた。


 あれは、たしか……そうだ。門番の片割れさんだ。

 アポを取らずに来たが為に門前払いされかけた私の前に現れて、空気を最悪にするだけして逃げ出した若い方の門番さんだ。


 ……それがなんであんな所にいるんだろう?


 服装を見るに今も仕事中なんだろうけど、それにしては門からも屋敷の入口からも微妙に遠い。屋敷を覗こうとしているような挙動不審な動きせいか、まるでこれから盗みを働く為に屋敷の下見に来た泥棒みたいに見えるし……。って、そんな想像はさすがに失礼か。


 なんとなく気になって見ていたら、ふと視線がこちらを向いて、ばっちりと目が合ってしまった。そのままビクリと動きを止めた彼と数秒、見つめ合う形に。


 ……どうしよう、気まずい。


 とりあえず身に付いた習慣でにっこりと笑って誤魔化しちゃったけど、良く考えれば私と彼とでは身分が違う。


 立場を考えれば悪いのは不躾に私を見ていた相手の方で、その行為に対して「ふふふ……見蕩れて下さるのは嬉しいのですが、そんなに熱い視線を向けられたら照れてしまいますわ」とか適当な事を言ってやんわり注意するのが正しいのだろう、本来なら。でもそれが正解だろうと私のキャラじゃないからやらないけどね。そもそも声届かないし。


 こんな時は無視するに限る。


 私は誰も見なかった。

 あー、一人で暇だなー。何しようかなー。


 あの二人の口論はどうせお母様が勝つだろうし、今のうちにアイラさんを乗せる乗り物でも作っとこうかな。簡単な棺とかにするとお母様文句言いそうだから、材料貰って簡易的なソファーベッドみたいのでも作ろうかな。


 なんて事を考えながら踵を返そうとしたところで、窓の向こうの男が何やら大袈裟に身振りをしているのに気付いた。どうやら私に向かっての合図……なんだろうなあ、あれは。


 軽く周囲を見回しても、運の悪いことに使用人は見当たらなかった。


 ……仕方ない。私が相手するしかないか。


 えーと、なになに?

 ……んー、身振りの区切りが、よく……。あ、だんだん分かってきたぞう。


 両手を合わせて、頭を下げて。これはお願いしますのポーズだね? それから、来い来いとのジェスチャー。もっかい、お願いします。


 ……え、私? これもしかして私を呼んでる?


 ……私、主家の孫娘なんですけど??


 どこの世界に貴族の娘を呼び付ける平民の男がいるんですかね。世間知らずな自覚のある私もびっくりですよ。


 あの人既に成人してるだろうに、常識ってものを知らないのだろうか。あんなんでよく公爵家の門番なんて役職ゲットできたな。

 やっぱりコネか。コネなのか。


 どうか勘違いでありますようにと願いながら、恐る恐る自分の顔を指差すと、コクコク頷く門番の男。


 ああ、やっぱり私を呼んでたのね……。


 屋敷に誰か来たっていうならお爺様を呼ぶだろうし、私が呼ばれる理由も、あの人があんな場所に立ってた理由も何もわからないけど……。


 まあいいか。どうせ暇だし。

 釈然としないものはあるけど、暇潰しに相手してあげよう。



 私は男に向かってひとつ頷くと、深く考えずに玄関へと足を向けた。


 その選択を、後に後悔するとも知らずに……。


見知らぬ屋敷に知らず浮き足立っていたソフィアは、こうして自ら危地へと飛び込んだのでした……。

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