再会した姉妹
お母様がアイラさんの精神に働きかけ、覚醒を促す。
その間に私がアイラさんの体調を整え、意識が覚醒しやすい状態を作り、体力もある程度まで快復させる。その予定だった。
しかし何事も、予定通りにはいかないもんだ。
「………………」
アイラさんの手を両手で握り締め、祈るようにしながら感情の想起を促し続けているお母様の、想いの強さに応えるように。
アイラさんの精神が微かに反応を示し始めていた。
……いくらなんでも早すぎる。
ウォルフの時の情報が全然参考にならない。
どんなに早くても数日は掛かると思っていたのに、喪神病を発症してすぐに処置をしたウォルフよりも十年以上眠り続けていたアイラさんの方が早く目覚めるだなんて、そんなの完全に想定外だ。
やはり身近な人の魔力というのが大切なのだろうか。それとも、他の要因が?
とにかくこのままでは、身体の準備が整う前にアイラさんが目覚めてしまう。
アイラさんに意識が戻れば当然、全身に満たした魔力が反発力を持って私の魔力に抵抗してくるようになるだろう。そうなれば今のように体内を好き勝手に弄り回すことは難しくなり、治療のスピードは格段に落ちる。
簡単に言えば、今意識が戻ってしまうとリハビリなしでは快適な日常生活が送れないということだ。
…………。
まあ、それが当たり前と言えば、そうなんだけど……。
治すのに時間がかかるってことは、それだけ自然な状態とは掛け離れた状態にしてるってことだし。
筋肉なんて「治す」って言うより「造る」って感じだし。
肉どころか血液だって栄養だって全然足りてないから、身体に負担をかけないようにバランスを考えながら少しずつ増やす羽目になってて、そのせいでメチャクチャ時間がかかってるわけだし。
起きた時には身体が動かなくて不便だろうけど、身体が自然回復を始めてからその効力を高める《治癒》をかけた方が間違いが無いって考え方もある。
……まあ、反応があったといってもまだ微かなものだし? すぐには起きない可能性だって充分にあるんだよね。
とりあえずはやれるだけ、やってみますか。
――と、健康な肉体の復元を頑張ろうと意気込んではみたものの。
はい無理でしたー!
最初に反応を感じてから二十分くらいかな? 思った以上にタイムリミットが早く来て何もする暇がなかったよね! お母様は精神をサルベージするプロなのかな!
というかそもそもね、初めから大したことできるわけないんだよね。
「右腕治してる最中に目を覚ましちゃったから手首と右手は間に合わなかったよー。あとは自分でリハビリ頑張ってね! それと左半身も手付かずだから、そっちもリハビリしてね!」とか言えないじゃん? 治療を途中で切り上げてアンバランスな身体にしちゃうくらいだったら、初めから全身リハビリでいいでしょって話。
なので目覚めの兆候が見えてからは、精神の覚醒状況を監視しつつ、弱った骨の修復や異常がないかの確認といった短時間で済む簡単な措置くらいしか出来なかったのである。うう、無念。
とはいえ、身体の治療は本来の目的ではない。
「お姉ちゃん……ッ!!」
重たそうにしつつもまぶたを持ち上げたアイラさんに、お母様が喜びを溢れさせ抱き着いていた。
ザ・病人! みたいな顔は私が苦手なので、優先的にお肉をプラスして顔を見ても忌避感が沸かない程度にはしといたつもりなんだけど、まだ微妙に違和感あるね。やっぱ血液の巡りがまだ悪いのかな。顔白いし。
……と冷静でいられる私がアイラさんの状態を細かく確かめるべきなんだろうけど、お母様の「お姉ちゃん」発言が気になっちゃって意識が取られる。
お母様、お姉さんのこと「お姉ちゃん」って呼ぶんだ……。へぇ……。
後で揶揄っちゃお。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」
……でも、今は。
「……。……、……」
何か喋りたそうにしているアイラさんのお手伝いをしよう。
そうだよね、寝たきりだったんだもん。
のど動かないよね。
顔は見れるように肉付けしたけど、首の筋肉とかはノータッチだった。
……どう考えても、明らかに先に治しとくべきだったよねぇ。
どうするかな。
興味無い人への対応が明らかに雑。それがソフィアクオリティ。
病人だろうと容赦しないよ!




