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仲直りしなさい!!


 食堂に、微妙な緊張感が漂っていた。


「……」


「……」


「……」


 カチャカチャと食器の奏でる音だけがやけに大きく響く。


 まあ、ね。

 緊張感が漂っているというか、私が漂わせているというか。


 なんとなくやめ時を見失っているというか。


「……これは、もしやクロケワの牛ですか?」


「あ、ああ。ソフィアが来たのだから良いモノをと思って、な」


 お母様とお爺様が、場の空気に耐えきれなくなったように口を開く。


 察するに、中々良いところのお肉らしい。ありがたいことだ。


 実際口に含んだお肉は大層美味しく、味付けも好みに合っていた。


「そうでしたか。良かったですね、ソフィア」


「はい」


 だが応えた声は、思いのほか冷たく響いた。


 我ながら子供っぽいことだ。


「……なあ、部屋の中でなにがあったというんだ?」


「だからそれは……」


 お爺様とお母様がひそひそと話すのを傍聴しつつ、考えるのは先程の事。


 ――ああ、失敗したなぁ。


 初めからエッテを付き添わせておけば、お母様に会った時点で異常にも気付けただろうに。


 そうしたらお母様の身体に負担を掛けることも無かったし、そんな指示を出してしまった自分に対する苛立ちを、お爺様にぶつけてしまうこともなかっただろうに。


 と、ひとり自己嫌悪に陥っているのだった。



 ……いや、まあ。


 全てが全て、八つ当たりという訳でもない。


 お爺様がついていながらお母様があそこまで危険な状態になっていたという点には、やっぱり憤りを感じるし。


 お母様もお母様で、倒れそうな状態になってるのを隠そうとしてたりとか、そんな状態ですらアイラさんの治療を止めない姿勢とか……もうね。


 むっすぅぅぅ~~~。


 って顔になっちゃうのも当然だと思うの。「いのちだいじに」って言葉を知らんのかと。


 幸い私が来たから良かったものの、私が来なかったらお母様は倒れるまで今の生活を続けていただろう。


 そうなったら今度は、お母様の看病でお爺様が倒れるのかな?


 はっ、なんとも奇怪な病人の増やし方があったもんだ。新たな疫病の名前は「愛情」とでも名付けられるのかな? 悲劇的で大衆受けはしそうだけどね。


 そんな溢れ続ける不満を隠しもせずに頬を膨らませていれば。


「……あの、ソフィア。私が悪かったですから、そろそろ機嫌をなおしてはくれませんか? ……ほら、お父様もお願いして」


「え、儂もか? ……そ、ソフィア~。膨れとる顔もかわいいが、おじいちゃんにかわいい笑顔を見せとくれ~」


 普段とは打って変わって、弱りきったお母様の顔。


 お爺様の方とは付き合いが深い訳では無いけれど、たんじゅ……ごほん。

 素直な性格なのだろう、その表情からは様々な感情が見て取れた。


 ……なのに、どうして。


「……ぷい」


 顔を背けつつも二人の反応を逃さず知れるように展開した【気配察知】の魔法が、視界の外での出来事をあまさず伝えてきた。


「……なんですかさっきのは」


「……すまん」


 お母様とお爺様が、普通に話している。


 そこまではいい。それだけならいい。


 でも、そこに至るまでに必要な()()が行われていない事が、私の不満だった。


 お母様が無意識にか避けて。

 お爺様は、それに気付いていながらも指摘しない。


 そんな(いびつ)さが、私の不満だった。


 なので。


「お母様は、反省したのですよね」


 強制的に()()をさせることにした。


「……はい」


 もういい。もう知らん。

 このヘタレ父娘は、どうせ放っておいても何も改善しない。


 長年の確執か知らないけど、娘を叱れないお爺様と、自身が甘やかされてる事にすら気付けないお母様は、孫娘(むすめ)に叱られるという屈辱を甘んじて受けるがいいと思う。


「ならまずは、謝って下さい。無茶をしたこと。心配を掛けたこと。全てを」


「……ソフィア。心配を掛けて、本当に――」


 案の定、当然のように私に謝り出すお母様を手で制して。


「ああいえ。私ではなく」


 そのまま広げた手の平を、お爺様の方へ。


「長年ずっと、お母様の事を見守り続け、心配し続けてきたお爺様に。謝って下さい」


 バッと顔を上げたお母様が私を見る。お爺様も驚いて私を見ていた。

 私は頑張って平静を装った。


 ……いやだって、おかしくない?


 ここはお母様とお爺様が見つめ合って「お父様……」「アイリス……」「ごめんなさいっ」「いいともっ」がばぁっ! みたいな流れで良くない?


 私脇役になるつもりだったんですけど。そんな見ないで。


「……お父様に、謝れ、と?」


 しかし現実は非情なり。

 いつの間にかお母様の目には強い光が……っていうか、私はばっちし睨まれていた。そりゃもう完全に、睨まれていた。


 え、なんで怖いモードのお母様再発してるの?


 あとお爺様もやめてそんな捨てられそうな子犬みたいな目で見ないでお願い。私のせいじゃないっていうかなんでこの期に及んでお母様が強い立場になってんのもうわけがわからないよ!!


「し、心配を掛けたのなら謝るのは当然のことでわっ!?」


 声が震えた。


 もう泣きたい。


母より強い娘などいない。

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