お爺様で回復
門番さんがお爺様を連れて来た。
「ソフィアではないか!! 何故こんなところにいる!?」
「ああ、お爺様」
どうしよう、またあのやりとり繰り返さないといけないのかな。嫌だな。
失礼極まる門番の相手で心を削られたせいか、どうにもやる気が出ない。
大好きな俳優に似てるお爺様の顔を見たら多少は元気も出るかと思ったけど……。
……いや、うん。
……まぁ、ちょっとは気分、上がってきたかも。
でもせっかくだからもっとパワーを充填させてもらおう。
「……あの、お爺様。ソフィア、お爺様にお願いしたいことがあるのですけど……」
やる気がなくとも甘えるくらいは慣れたものだ。
元気ハツラツな時もちょっとナイーブな時も。
どんな時だろうと変わらぬ愛で包み込んでくれるお兄様は最高だけど、どんな顔を見せたところで全て受け入れてくれるのは分かっているけど。
でもそれはそれとして、可愛くない姿は見せたくない乙女心。
甘えながらも常にお兄様が望む妹でいるよう意識してたから、自然と鍛えられちゃったんだよね、甘え方。
その鍛えられた直感が告げている。
お爺様は素直で真面目ないい子ちゃん好きだと。
礼儀正しく、真摯に「本当に心苦しいのですが、お爺様以外に頼れる方がいなくて……」みたいな雰囲気を出せばイチコロだって。
だから私はこの一時。お爺様の理想の孫娘になる。
「……お願い、聞いて下さいませんか?」
我侭ではない。押し付けでもない。
無力な私を救えるのはお爺様だけだと信じているけれど、でも、本当に頼っていいのかと迷いながら、勇気を出して口にした。ただ一度きりの、救いを求める言葉。
この願いが受け入れられなかった時は潔く引き、私は一人で困難に立ち向かうだろう……。
という心構えでお願いした。
純粋な想いを持つコツは、欲に塗れた願いの内容を了承の言葉を引き出すまで忘れておく事だ。
魔法の発現にも重要な思い込み力。
自分ですら容易に騙せるんだ。
面識の少ないお爺様ひとり、騙せないわけがなかった。
「な、なんだ? なんでも言うといい。儂にできることなら全力で叶えてやるぞ!」
……くふふ。
あー、いい。これいいわぁ。
好みド直球の俳優(似のお爺様)が私の一言で思う通りに態度を変える。自ら進んで言いなりになる。
この背徳感……癖になりそう!
調子に乗った私は、もう一段階攻めてみる事にした。
「ありがとうございます。ではまず真っ直ぐに立ってですね。左手を腰に。右手は頭に、こう……、この様なポーズを取って『やれやれ、また俺がやる羽目になってんじゃねーか』って言ってみてください」
「は?」
突然の要求にお爺様はポカンとしてたけど、再度「やってください」と念を押しつつお爺様の身体を触ってポーズを取らせていると、やがて付き合う気になってくれたのか素直に指定通りのポーズを取ってくれた。
そして。
「……やれやれ。また俺がやる羽目になってんじゃネーカ」
うおおおおそっくり! くりそつ! 私のお爺様マジ大俳優!! あの映画の名シーンを見事に再現していらっしゃる!!!
あーすご。わーやば。
心にずっきゅんときた。私の乙女ハートが久々に再始動したわ。
感情の込め方がイマイチだったり言葉が片言なのは気になるが、初めてにしては上出来だろう。というか予想以上だった。
「……これには一体、どのような意味があるのだ?」
心底不思議そうなお爺様が律儀にポーズを保ったまま首を傾げる。
うおお。その所作も映画のボツシーン集みたいでいい。お爺様ナイス天然。
「私が元気になりました。ありがとうございます、お爺様」
「お、おお、そうか? ならば、まあ……良いか」
えへへへへー、元気出てきた!
さってと、それじゃあ次のポーズは……じゃなかった。私はお母様に用事があるんだった。
お父様から預かった手紙に触れながら、この後に待ち受けるだろう喪神病の治療という大事への心構えを固める。
その前に、まずはお母様と話をしないと。
「お爺様。私、お母様に会いに来たんです。案内していただけますか?」
古参門番「……子供じゃなかった。あれは女だ。御当主様を手玉に取るなんて末恐ろしい……」
若い門番「やばい惚れた」
古参門番「ああ、本当にやばい……え?」




