門番
門番のおじさんに嘘を暴かれどうしようかと考えていると、柵門の向こう側から若い男が現れた。
「おじさーん。なーに女の子いじめてんのー?」
「いじめとらんわ」
おじさんとお揃いの格好を見るに二人目の門番さんだろう。連絡要員かな。
とにかく、場の空気が変わった。
変わりはしたが、依然主導権はあちらにある。私に出来ることは少ない。
それでも、門前払いはさすがに想定外だ。
なんとかしてお爺様かお母様に会うことさえできれば何も問題ないのに……。
どうするべきかと考えていると、おじさんはしゃがみ込んで、私と目線を合わせてきた。
「あのな、ソフィアちゃん」
優しい声だ。
相変わらずこの世界は私に甘すぎる。
目線を合わせたのは「これ以上の嘘は見逃さん」と顔を覗き込むためか、はたまた怪しい物を持っていないか検分でもされるのかと身構えた自分が本当に嫌になる。
嫌にはなるけど、でもこれ魂に染み付いた癖だから治らない気がするんだよね。
普通に歩いてただけで刺殺された事は未だにトラウマだし。
「街の外は、本当に危険なんだ。大人たちだって君にいじわるをしている訳じゃあない。君が毎日を楽しく元気に過ごせるようにと思って、つい口うるさくしちゃうんだよ。それだけはどうか、分かってくれな」
「はい……」
この年になってガチ説教つらいです。心に刺さるわ。
自然と涙目になりそうになったけどグッと堪えた。
……てゆーか、そもそも別に、泣く理由とかなくない?
雰囲気に流されてちょっとうるっと来たけど、言ってる事的外れもいいとこじゃない?
無断外出じゃなくて、ちゃんとお父様からは許可もらってるし。
それになんで私が口うるさく感じるくらい叱られてること前提なんだ。納得いかない。
大体口うるさい担当のお母様は私が元気に過ごせるようにとかじゃなくって、私がだらしない格好とか行動してる時に口うるさくなるんだから!
さてはおじさん、私と自分の子供を重ねているでしょう! やめてよねそーゆーの!
「おじさーん、そりゃないよー。淑女に子供扱いとか失礼の極みだよ? その子のこと何歳だと思ってるのさ」
不覚にもウル目させられた反動から心の中で怒っていると、柵門の向こう側から私たちを見ていた若い門番がこちら側へとやってきて、おじさんの肩に寄り掛かりながらそんなことを言った。
問われたおじさんは軽く振り返りながら「何をバカなことを」と男の発言を笑う。
「悪い事をしたら叱るのは大人の役目だろう。それに女性に年齢を聞くなんて、それこそ……」
「いいからいいから。ちなみに俺は……十三歳と見たね」
説教の矛先を変えようとしたおじさんを見事に受け流した青年が具体的な数字をあげると、それに釣られておじさんも自分の見解を述べた。
「十三? そんなわけないだろう、こんなに小さいんだぞ。せいぜい八つとか、そのくらいだろう」
………………八つかぁ。
やばい。今度は本気で泣きそう。
「……あー、こりゃ娘さんと上手くいかないのも当然だわな。ね、ソフィアちゃん。このおっさんにいっちょ教えてやってよ。現実ってやつをさ」
ねねね、とおじさんと同じように目線の高さを合わせ、楽しそうに頭を右へ左へと揺らす男。
なんだこいつ馴れ馴れしい。
……でも初対面ではまず間違いなく幼く見られる私の年齢をズバリ当ててきたのは評価してやってもいいかな。
実際にはあと一ヶ月ほどで十三なのだけど、そのくらいは誤差の範囲だろう。
「……ぅさんです」
「え? なんだって?」
優しく接してくれたおじさんが、今は忌々しく思える。
聞き返すなよ。
「十三歳ですっ!!」
半ばやけくそ気味に叫ぶと、おじさんの本気で驚いた顔が目に入ってきた。
挙句には。
「……分かった、冗談だろう? あまり大人をからかうものじゃないよ」
などと宣って、はははと笑い出す始末。
いや全然冗談なんかじゃないんですけど???
誰だこのおっさんを優しいとか気遣いができるとか評したの。私か。人を見る目ないな私。
一見軽そうに見えた後ろのお兄さんの方がよっぽど見る目あるわ。
人の第一印象って当てにならないね。
「あ、あー……なんかごめんな。あっ、確か当主様に用なんだよな!? 俺ちょっと呼んでくるわ!」
と思ったら、そのお兄さんも言うが早いか猛然とこの場から逃げ出した。
後に残されたのは、大人におもちゃにされ散々に辱められた私と、子供と女の子の区別も付かないおっさんのみ。
「……え、本当に十三歳なの? え? いや嘘だろう?」
だから聞き返すなっつってんだろ。言ってないけど!
傷口にナイフぶっ刺して抉るのやめてくれない? 割と外道の所業だよそれ。
この日、私は悟ったね。
お兄様以外の男に頼るのは間違いだと。
「十三歳と見たね」
と言いつつ対応が完全に子供に対するそれ。
奴の内心は推して知るべし。




