魔力の増やし方
カイルの魔力を上げる、ねぇ……。
できないことはないけど、無闇矢鱈にやっていいものじゃない……よね?
と、ゆーわけで。
「んー……。やっぱダメ」
結論、不許可!
不可抗力だったウォルフとは違って、そんな欲望まみれの理由は受け付けられませーん! とノーを突き付けてやった。
もしかしたら駄々をこねられるかなーとか思ってたら、カイルはまさかの返しをしてきて私を驚かせた。
「じゃあマッサージ! マッサージしてくれよ! 前にカレンにやってたやつ、あれならいいだろ!? ミュラーにもやってたもんな!」
あ、ああ~……。
それね、実は同じものなんですよ……。
カイルの勘違いはともかく、言ってることは正論だから困る。
「え~……」
どうしよう、断り文句が思いつかない。
「気軽にできるものじゃない」と断ろうと思ってたから出鼻をくじかれた形になった。
カレンやミュラーにもしてあげた事実がある以上、その理由は使えない。何か別に明確な、カイルだけ断る理由が必要なんだけど……うう!
何か思いつかないと、このままでは男の身体を揉む事になってしまう!
何か良い案はないものかと頭を働かせていたら、ずっと放置されてたネムちゃんが退屈したのか、会話に混ざってきた。
「ねーねー。魔力簡単に上がる方法、あるよ? 魔族に伝わるやつ!」
そして得意げな顔で、何故か極秘のはずの情報をカミングアウトしてた。
「ホントか! ……魔族??」
聞き流せば良いものを!
自分の思考を放棄して、一瞬の間でフォローの方策を練る。三つの選択肢が浮かんだ。
1.勢いで誤魔化す
2.黙っていて貰うよう頼む
3.殴って忘れさせる
4.殴ってから考える、ってのもありかなと思ったところで、ネムちゃんが自分で対処してた。
「魔族じゃなくて、家族! あのね、血を飲むんだよ。生き物の生き血を毎日、いっぱい! そーすると魔力増えるよ!」
「「…………」」
お、おう。身体がぶるって震えたよ?
聞き間違いってことにするんだー、って感想が一瞬で流れた。ネムちゃんの発言とは信じられないくらい猟奇的。
っていうかなんか鳥肌立ってきたうひょう!
「……それは、いいや」
カイルも露骨に引いてた。
「そっかー……」
いい考えだと思ったのになー、程度にしか感じてなさそうなネムちゃんの情操教育どうなってんだ。
つか絶対あの師匠の入れ知恵でしょ! あのおっさんヤバいってマジで!
お母様が帰って来たらチクっておこうと心に決めたところで、気持ちを切り替えたカイルが再び私の方に向き直り、更なる強カードを切ってきた。
「なぁソフィア、どうしてもダメか?。こないだ菓子だってやっただろ?」
「うっ」
やめろ、それを言われると弱いんだ……っ!
あれはもともと私へのお礼のはずだから「ありがとう」と受け取った時点でお互いに貸し借り無し。
つまり私がお菓子を貰ったことに過剰に恩義を感じるのはおかしいんだと頭では分かっていても、でも、気にしちゃう!
だってアレ本気で美味しかったからぁ……ッ!
思い出しただけでついつい笑顔になっちゃうくらいの破壊力。
私のお菓子に対する概念を塗り替える程に天国を見せてくれたあのお菓子を引き合いに出されては「マッサージくらい、いいんじゃない?」って気になってくる。
そうだ。マッサージなら、いいのかな? うんいいかも。
カイルに言われた時は「誰かに突っ込まれた時用の言い訳が裏目に出た」と思ったけど、逆に言えばカイルにするのだってただのマッサージなわけで。
魔力がどーたら騒いでたけど、なんやかや言い合いしてるうちにマッサージさせられることになりました、ってことにして。
終わった後には何故かカイルの魔力が上がってるかもしれないけど、でも私はマッサージしただけですから。
よく知らないけど、気持ち良くなってやる気が出たとかそんなんじゃないですか? みたいな感じでどうだろう。割とありなんじゃないだろうか。
よし、対お母様向けの言い訳はこれでいこう。
「まあマッサージくらいならいいよ」
「よっしゃあっ!」
わー、大喜びだね。
これでただのマッサージしたら面白い顔が見れそう。流石にそこまで意地悪なことはしないけど。
「じゃあ昼に、かな?」
「おう!」
……カイルとの話は、そんな感じで纏まったけど。
実はネムちゃんが、毎日生き血を飲む生活してるとか、そんなこと……ないよね?
いつもの笑顔で肯定されたらと思うと怖すぎて聞けない。
ネムちゃんって分かりやすそうな性格してるけど、結構謎が多い人だよね……。
(聞いてみたinソフィアの想像)
「生き血?飲んでるよ!ソフィアのも飲ませてくれるの?」→捕食者の目ェ!
「生き血?飲んでないよ!でも家族は毎日飲んでるよ!」→魔族怖ぁっ!
豊かすぎる想像力。




