ペットを自慢しよう
元・公爵なんて偉そうな人が来るなんて、我が家自慢のペットは貴族街のアイドルになってしまうのだろうか。
そうなればマネージャーは当然私だ。
フェレットユニットのフェルとエッテをプロデュースする傍らで人間の男の子と女の子を集めてアイドルグループを結成。
コアなファンを生み出し、アイドルの由緒正しい崇め方を教えてオタク文化を広めよう。
ここには漫画が無いのが不満だったんだ。
アイドルを通して愛を知ることで、心の内から湧き上がる熱い想いを感じてほしい。
それを共有しよう。表現しよう。
アニメなんて無茶は言わない。まずは絵だ。絵を描こう。上達したら漫画を描かせれば、流行る。間違いない。
流石に貴族の権力は使えないけど私が全面的に支援しようではないか。
私が演出するアイドル黎明期。
オタク文化の幕開け。
ああ、なんて心躍る響きだろうかっ!
「ソフィア、戻ってきなさい」
「――はっ」
いけない、妄想が暴走した。
なんの話だっけ?
「お父様、初めからもう一度お願いします」
「初めからか」
「ええ、お願いします」
「ごめんなさい、お爺様。お願いいたします」
明らかに私が悪かったので頭を下げた。
ソフィアちゃんはきちんと謝れる良い子ですよ。
「うむ。では初めからだな」
おじいちゃんは気を悪くすることもなく答えてくれた。いい人だね。
で、簡単にまとめると。
危険な魔物を従えてるなんて危なそうだから様子見に来たらしい。
安定の魔物は危険思想。
フェレットみたいな魔物はやっぱり特別なんだね。
そんな反応もそろそろ慣れてきたので、いつも通りフェレットさんにご登場してもらう。
私の肩から腕を伝ってテーブルに降りると、並んで頭を下げる。
この為に仕込んだ芸だ。
魔物という先入観を持った人でもこの愛らしさに堕ちる。
おじいちゃんも思わず兜を脱いで凝視する程度には驚いていた。
「これが魔物……だな、確かに」
お母様に教えて貰った方法で私も見てみれば、フェルとエッテは確かに魔物の反応を示している。
因みにこの方法、魔力を目に込めるだけ。目を凝らす程度の意識でできるものだったらしい。
私にしてみれば視覚に影響を与える魔法にしか思えないけど、眼鏡をかけた人がいないのはこの魔法のせいだと思う。
だけど、驚くにはまだ早いんだなあ。
「フェル! エッテ!」
「キュウ!」
「キュイ!」
声を掛けて手拍子を鳴らせば、その音に合わせて踊り出す。
さすがに、こんな魔物はいないでしょ? というパフォーマンスだ。
我ながら上出来。
それもこれもフェルとエッテが賢いからできたことだ。
踊り終わった労いに頭を撫でてあげれば嬉しそうな鳴き声を上げる。
いや、本当によくやったよ。
おじいちゃん、顔すっごく近づけて見てるんだもん。プレッシャー凄かったと思うんだよね。
この胆力があれば本気でアイドルを目指せるかもしれない。
「我が家のペットは如何でしたか?」
未だ惚けているおじいちゃんに、私はにこやかに微笑んだ。
フェレットに色々仕込むのがマイブームなソフィアちゃん。彼女達の明日はどっちだ。