ぷっつーん
リンゼちゃんの胸に抱かれて泣いた。
……という夢を見たんだ。
「……あれ?」
目が覚めたらベッドにいた。
私はたしか、リンゼちゃんに「別に好きじゃない」って言われて、そしたらなんか泣けてきちゃって……あれ。
もしかして、あれは夢だったのか。
そうだよね。リンゼちゃんが私にそんな酷いこと、言うはずないもんね!
いやー焦った!
だって夢の中のリンゼちゃんってば、本物にそっくりだったもん! リンゼちゃんなら言いそうな言葉遣いだったし、すっかり騙されちゃったよ!
リンゼちゃんに恥ずかしい姿を見せたのが夢でよかった! とひと安心してたら、部屋のドアが開く音がした。
「あら、起きたの」
あ、リンゼちゃんだー。と声を掛けようとして無意識に目元を拭った時、違和感を覚えた。
……今の感触って、まさか。
慌てて化粧台の元へ行き、鏡を覗き込めば、そこに映る顔にはくっきりと涙の跡が残っていた。
「まったく、子供じゃないのだからあの程度で泣くのはどうかと思うわよ? 私の服だって汚して……」
「うああああ!!」
夢じゃなかった! 夢じゃなかった!!
うああ恥ずかしいよう!
すぐさまベッドに逆戻りして転げ回る私に、なおもリンゼちゃんの追撃は続く。
「そういう子供っぽいところも直しなさい。あなたは嫌なことがあると逃げてばかりだけれど、そういうのは良くないと思うわよ」
真面目トーンで諭すのやめてぇ! 心に刺さるから!
っていうか、元はと言えばリンゼちゃんが悪いんじゃん!
なんか急に噛み付いてきて、攻撃的になって、っていうか普段から私に対する態度が雑すぎる! 私リンゼちゃんのご主人様なんだよ!? 昨日は貴重なお菓子だって分けてあげたのに!
……そうだ。悪いのはリンゼちゃんなんだ。悪い子リンゼちゃんなんだ。
悪いメイドさんにはどうするべきか? そんなのは決まっている。
「――リンゼちゃん! お仕置きするよ!」
「はぁ……?」
油断しきっているリンゼちゃんの身体に魔法で発生させた風をぶつけて、姿勢を崩す。
風に押されてバランスを崩したリンゼちゃんの手を引いて無理やりベッドに連れ込むと、お次は掛け布団をがばりと巻き付けて拘束した。
「ちょ、ちょっと、なにを。あっ!?」
えーい、私に優しくないリンゼちゃんなんてこうだっ! こうして、こうっ! ぐるぐる巻きの簀巻きにして、アイテムボックスから取り出したこのロープで結んでやれば――ッ!
完成! ロリメイドのお布団巻きの出来上がりだーっ!
「……これは、何の真似?」
うわ、怒ってる。こわぁ。
でもでも、私だってリンゼちゃんに怒ってるんだから。ちょっと睨んだくらいで止まると思ったら大間違いだよ!
「これからリンゼちゃんにお仕置をします」
もぞもぞと儚い抵抗をしているみたいだけど、ふふふ。無駄だよ。
はーいお靴脱ぎ脱ぎしましょうね~。
「あなた、まさか……やめなさい!」
今更慌てたところで遅いよー?
ご主人様たる私を蔑ろにした罰、その身で受けるがいい!!
「やめて欲しかったら『ごめんなさいソフィアお姉様。リンゼ、お姉様が大好きだからイジワルしちゃったの』と可愛らしく言うのです」
「そんな馬鹿なこと……くひぃっ!」
そ~れこちょこちょ~。
「ちょっ、やめっ、て……くんんッ!! ほ、ほんとに……っ、怒るわよ!」
やーん。悶えながら怒るリンゼちゃんかーわいーい。
「怒ってるのは私でーす。最近のリンゼちゃんはちょっと失礼すぎると思うんだよね。年上への敬意が足りてないというかー」
そりゃー女神様なんだしー? 実際偉いんでしょうけどー?
でも私のメイドさんに自ら志願してなったからには、もっと私を楽しませる義務があると思うんだよね。
着せ替え人形くらいは当たり前で、擬似姉妹プレイだって気分良くさせてくれないと困っちゃうよ。挙句にご主人様を言葉責めで泣かせるだなんて、なんて悪いメイドちゃんだ! とんでもない事だよ!
リンゼちゃんはもっとちゃんとメイドさんとしてのお仕事を全うしなさい! メッ!
「それ……はっ、! あなたがっ、尊敬するに値しない人だから……あくッ!」
「そーゆーとこー!」
まったくほんとにこの子はもーー!!
これはもう、遠慮はいらないってことだね!? 本気でやっちゃっていいんだね?
「もー許さない。リンゼちゃんがちゃんとごめんなさいできるまで、ずっとこのままだからね!」
「はぁ、はぁ……あなたこそちゃんと、んんんッ!?」
そして、私とリンゼちゃんの(一方的な)くすぐりファイトが始まった。
わがままな子は追い詰めると暴走するという見本です。気をつけましょう。




