お菓子を迎えよう
お菓子が来たと思ったらお兄様だった。
お兄様とのお話も楽しくて好きだけど、今の気分は完全にお菓子に向いている。
そんな半端な気持ちでお兄様に向き合うなんて、私にはできないっ!
「お兄様はこの後、自室に戻られるのですよね?」
さりげなーくお別れを切り出してみたけど、
「そのつもりだったけど、このままソフィアの待ち人が来るのを待ってようかな。僕も挨拶したいからね」
逆にお兄様の気を引いてしまったみたいだった。
「そうですか? 来るのはカイルですから、お兄様が気にする必要は無いと思いますが」
うむむ、これは困ったぞ。
カイルは「私へのお礼」と言っていた。
つまりお菓子がケーキ的な物だった場合、その個数はひとつである可能性が濃厚。お兄様の分は当然無い。
ひとつのケーキを二人で分けるというとっても素敵な方法もあるにはあるけど、贈り主であるカイルの前で贈られた品を分割なんてするのは「なんだひとつしかないのか。気が利かないな」と言っているのも同然だ。それは大変な失礼に当たる。
で、お兄様の前でそんな失礼なことをすればお兄様が断るのも容易に想像がつくし、そうなれば私がお客様相手に失礼な態度を取ったという事実しか残らない。いいとこなしだ。
でもお兄様がいる前で、私だけが至高のお菓子を口にするのもなぁ……。
どうせなら幸せはみんなで分かち合いたい。
こんな時にお母様が不在なのはとても残念だけど、お父様は家にいるし、リンゼちゃんだってお菓子は好きなはずだ。
みんなでおいしーおいしー言いながら食べるのがベスト。
その為には、お菓子の量が……カイルが持ってくるお菓子の量が、最重要なんだよう。
あ~~~~! カイルまだかな!!
「……カイルくんを待っているにしては、いつもと雰囲気が違うね」
「え、そうですか? んん……」
しまった、浮かれ過ぎてたかな。お兄様の前で恥ずかしい。
お菓子を待ち侘びてるだなんてバレたら子供っぽいと笑われてしまうかもしれない。そう思うと段々と恥ずかしさが増してきたような……うう、収まれ私の卑しい心よ!
赤くなった頬をもにもにと動かして、顔の緩みを正して……ん!?
……。
………………なんか今、お兄様が……。無詠唱で魔法を使ったような気配が……。
「…………(じーー)」
うーーん、気のせいだったのかな?
周囲に魔力反応はなし。何も起こってない、か。
お兄様は優秀なのは知ってるけど無詠唱が出来るなんて話は聞いたことないし、やっぱり気のせいかな。
「……ソフィア? どうかしたかい?」
「いえ、今何かを感じた気がしたんですけど……気のせいだったみたいです」
そうだよね。大体お兄様が私に隠れて魔法を使う理由なんてないしね。
……って、あ。
お兄様の足元からそそくさと離れるエッテを発見。
さてはお兄様にイタズラしようとしてたな? 悪い子だー。
「こーら、エッテ」
「キュイッ!?」
つっかまっえたー。
逃げようとするエッテの首根っこを捕まえて、めっ! と叱っておいた。
まったくもう、この子ってば~。
どうせお兄様にイタズラをするならもっとこう、服の下を動き回って可愛らしい声を上げさせるとか、耳をくすぐって油断した声を上げさせるとか、そーゆーのにしてよね!
「大人しく一緒に待ってようね」
「キュイ……」
抱きかかえられて大人しくなったエッテを撫でる。
それにしても、もう大分経ったんだけどカイルはまだ来ないのかな。いつ来るのかな。あと少しかな。
う~~~、待ち遠しい!
「……!」
と思ったところで、エッテが突然、耳を立てて玄関の方に視線を向けた。お兄様の肩にいるフェルも同じような行動を取っている。
遅れて私も耳を澄ませば。
――トトン。サリッ。
地面に降り立つ足音。そして抱えた布袋が擦れたような、衣擦れに近い音。
足音から察するに荷物の重量はそれほど……いいや、それよりも!
思わず駆けだした私は、玄関扉を大きく開け放って――。
「カイルっ! いらっしゃい!」
「っ」
私の突然の行動に、背後ではお兄さまの驚くような気配がしたけれど、今はそれよりも!!
驚いて固まるカイルの、その腕に抱かれる荷物こそがっ!!
ああ、ああ。
ようやく私の元へ来た。
長年夢見た、至高のひとつが。
どうぞようこそ、いらっしゃいませ!
ずっとずっと、待ってたよ~~~カイルっ!
ソフィアがフェル&エッテを占有してるとソフィアの近況がロランドに伝わらない。
待ち切れずに接触しても、ソフィアが傍に居ると念話を感知されて経過を聞くこともできない。
結果、男を待ち侘びる妹を見る羽目になったお兄様の図がこちらです。




