視線を感じる
私は視線に敏感だ。
女は男にエロい目で見られるから視線に敏感になるって言うけど、それにしたって敏感だ。
……あんまり敏感敏感言うもんじゃないな。
つまり、どーいうことかというとだね。
ほら、あっち。前方斜め六十度。二時の方向にいらっしゃる彼女を見て欲しい。
じーーーーーー……。
っと、そりゃもう朝からずっと。
なんかカレンちゃんが、ずーーっと私のことを見つめてくるんですよ?
くっそかわいい。
「ソフィアなにしたの?」
「さあ……」
朝からずっと見られてるもんだから、いい加減周囲にも気づかれ始めてきた。いや、気づかれた原因は明らかにもう一人の方なんだけど……。
チラリと視線を向けた先には。
じーーーーーー……。
「じーーーーーーっ」
増えてる。増えてるよー。
しかも口で「じー」って言っちゃってるよネムちゃーん。
「なんかわかんないけど、かわいいね」
「ね」
興味ない振りをしながら横目でこっちを見てるカレンちゃんもかわいいし、机から顔を半分だけ出して「じーーー」って言ってるネムちゃんもかわいい。
なんで見られてるのか分かんないけど、指摘したら多分あれやめちゃうんだよね?
飽きるまで放っておこう。
「止めないの?」
「かわいいから」
「ふーん」
かわいいは正義。正義は絶対なのだ。
「でもすぐに止めることになると思うけどね」
「え?」
その根拠はと問い質そうとする前に、会話が耳に入ってきた。
「およ。ネムりんこんなとこで何してるの?」
「じーーー。ソフィアを見てる」
ネムちゃんの奇行を見つけた女子が声を掛けたようだ。
ネムちゃんは私から視線を逸らすことなく返事をしていた。真剣なネムちゃんかわいい。
「そりゃ分かるよ。なんで見てるのかって聞いたんだけど」
おっ、いい質問。
これは返答次第での視線の圧力が減らせるかもね?
期待しつつ耳をそばだてる。
「なんで……なんでだろ? 面白いから?」
どうやらネムちゃん本人もよく分かっていないみたいだった。
つまりなんとなくってやつだね。
というか実は、見てたから流れ知ってるんだけどね。
いつもみたくカレンちゃんに絡みに行ったけどカレンちゃんは上の空で、仕方なく真似をしてみたら案外楽しかった……ってとこだと思う。私見て楽しい要素あるのかは分かんないけど。
「……面白いんだ? へー。じゃああたしも」
ってうぉい、ちょいとお嬢さん?
待って待って。いま会話の流れがおかしかった。
まさかと思ったけど冗談ではなかったらしく、気付けばネムちゃんの横からもう一対の瞳が私を見ていた。
「じーーーーーー」
「じーーーーーー」
じぃぃぃぃっ。
視線の圧が増した。
全部で三人分。ではない。
ネムちゃんだけなら「なんだいつもの奇行か」で済むが、ノリの良い暇人がネムちゃんに乗っかったが為に、今や教室中の視線が私たちに集中している……気がする。
耳を澄ませば「なにあれ?」「ソフィアがネフィリムのおやつ食べちゃったらしいよ」との教室の声が聞こえてくるが、そんな事実は断じてない。私はそんなに意地汚くないやい。
「止めに行かないの?」
面白げな友人の声に押されて、しぶしぶ席を立った。
「……行ってくる」
なんだろう、この敗北感。
教室中の視線を浴びながら歩くとネムちゃんの元までの短い距離もやけに遠く感じる。
私が一体何をした!
見つめれば見つめるほど、色が変わって……。
ソフィアが怒ったぞー!にっげろー!




