カイル視点:仲直り
「ってこと……だよな」
うん、多分そうだ。
ウォルフは泣いたミュラーを咄嗟に慰めにいったソフィアに嫉妬しただけ。
だから俺に怒鳴ったあと「大体ソフィアが――!」とか言い出して倒れたんだよな。
……あれ? じゃあウォルフが倒れたのって、もしかしてソフィアのせいか?
いや、そんなことないよな。
うん。
……たぶん。
…………。………………、だーっ!!
そもそもこうやって、うだうだ考えてんのが俺には向いてないんだ! めんどくせぇ!
ソフィアのおかげでウォルフも無事だったんだから原因とかどーでもいい!
んで言い合いは俺も悪かったし、ウォルフも悪かった!
つーかあの時はお互いどうかしてた! だから気にするだけ無駄だ!
はぁーあ。
俺、なに悩んでたんだろ。馬鹿らしい。
こんなんお互い謝ったら済むことじゃん。
そう気づいてからの行動は早かった。
「おーいウォルフ!」
俺が近寄ってったらやたら警戒されてたけど、知ったこっちゃない。
めんどくさいのはもういい。
「仲直りしようぜ!」
「バッ!? お前、こんなとこで……ッ!」
あはは、あせってやんの。
「いいじゃん別に。俺らが一緒にいない時点で喧嘩してるって言いふらしてるようなもんだろ? それより、俺どうしたらいい? 頭でも下げようか」
「~~ッ、分かったからちょっと黙れ!」
うん。
やっぱこのくらい気安くないとな。
◇◇◇
ウォルフに連れてかれた先は人気のない廊下だった。
「カイルさぁ……わざとだろ?」
「んー? そうかも」
へへっ、と軽く笑う。
二人の間に流れる空気はもういつものと変わらなかった。
「なんかごめんな。あん時は無神経なこと言ったみたいで」
「いや、俺こそ悪い。急に倒れてびっくりしたろ」
「ああ。すげーびびったわ」
本当は、びびったなんてもんじゃない。
俺のせいでウォルフが! って気が狂いそうなくらい取り乱してた気がするけど、正直あの時のことはあんま覚えてねーんだよな。
俺がどーしていいかわかんなくなってる間にカレンが人を呼んだりしてくれたのは覚えてるけど。
んで、そのあとは……動かなくなったウォルフを見て、ウォルフに泣きついてるミュラーを見て。
……そ、それから。
……俺、ソフィアにすっげー情けないとこ見せた、よな?
うああ。
「……どうした?」
あの時の自分の姿を思い出して頭を抱えてたら、ウォルフに変な目で見られた。
理由を話す。
「いや、自己嫌悪っつーか……。思い出したくないこと思い出してた」
「なんだ。そんなの、俺もだよ」
え? と思って顔をあげたら。
「俺もあの日のことは忘れたいくらい恥ずかしい。たくさんの人に迷惑もかけたしな」
そう言って、ウォルフも力なく笑ってた。
うーん。やっぱ落ち込んでんな。
ウォルフにとってもあの日の出来事は人生で一番の大事だっただろーし、そりゃそうか。
だけどさ。
「いや、俺のはそーゆーのと違うぞ?」
俺のは単に俺が恥ずかしいだけだし。
ウォルフのみたいに大層なもんじゃない。みみっちい悩みだ。
「同じだよ」
それでもウォルフは俺と同じだと譲らない。
そーかぁ? と思ったけど、本当に同じだった。
「ソフィアだろ」
「……お、おう」
びっくりした。
俺ってそんなにわかりやすいのかねぇ?
「俺ってそんなにわかりやすいか?」
思わず聞いた俺を見て、ウォルフは楽しそうに、くくくっと笑いだした。
「いやぁ、そもそもカイルって大体ソフィアのことばっか考えてるじゃん。『ソフィアだろ』って言っときゃぜーんぶ大当たりだろ」
「そんなことねーよ!」
「いやいや、そんなことあるって。あるよ。めっちゃあるから。あはははは」
くっそ、大笑いしやがって。
俺は別に、そんなにソフィアのことばっか考えてなんて……。ああくそ、笑いすぎだろ!
「お前だって、どうせミュラーのことばっか考えてんだろ!」
「ああ、そうかもな」
悔し紛れに放った言葉を簡単に肯定されて、勢いが行き場を失う。
もう完全に普段のウォルフだった。
「立ち直るのがはえーんだよ!」
「悪いな。どっかのお節介があまりにもノーテンキだから思わず気が抜けたわ」
「言ってろ!」
お互いににやけ顔で。
またこうやって、軽口を言い合えるのが楽しくて。
ひとしきり言い合った後には、どちらからともなく謝ってた。
「あの時は悪かったな。言いすぎた」
「こっちこそ。ごめんな」
あの日の件は、これでおしまい。
今日からはまた親友として仲良くやっていこう。
この日から二人の仲は更に深まり、ミュラーがちょっと嫉妬してるらしい。




