表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
342/1407

ロランド視点:ソフィアの守護者


 僕達は早足で廊下を歩いていた。


「喪神病って、マジかよ……」


 ネムちゃんはその知らせを三人で聞いたのだと教えてくれた。


 その後、移動中に立ちくらみを起こし取り残された所へとエッテが現れ、僕達のところへ案内したのだと。


「うん。間違いないと思う……」


「なんにせよ、よく知らせてくれた。ありがとう」


 感謝の言葉は、もちろん少女へ。それと――。


(それがご主人様のためですから~)


 頭の中に声が響く。


 その正体は、今も先導役を務めてくれているソフィアが飼っている特別な魔物。エッテのものだ。


 この声は僕にしか聞こえない。

 念話という魔法によるもので、他人に聞かれる心配がない上に距離も関係なく意思の伝達が可能という驚くべき利点がある。


「それで、状況は?」


「詳しく聞く前に、こっちに来ちゃったから……」


 申し訳なさそうにする彼女には悪いが、彼女の返事を期待しているわけでは無い。


(ウォルフという人が喪神病になっていて~、あと~みんな悲しんでいるそうです~)


「そうか」


 必要な情報は得られる。


 ソフィアの傍にいるフェルが得た情報は念話を通してエッテが教えてくれる。そう頼んである。


 僕が念話を使えなくても、問題がないようにしてある。


「ソフィアの様子は?」


「あ、ついでにミュラーのも教えてくれ」


「んと、ソフィアもミュラーも焦ってたよ。ネムも、心配だし……」


(他の人ほどは取り乱していないみたいです~。あ、でもカイルくんにお願いされてるって~)


 お願い……? なんだ?


 カイルというのはソフィアと仲の良かった男子のはず。

 昔ソフィアに意地悪をしていた男の子だから気をつけるように、と姉様から警戒するよう言われてはいるが……。


(ふんふん。どうやらカイルくんは、ウォルフくんが倒れたのは自分のせいだと責任を感じているみたいですね~。彼の治療の依頼をご主人様は快諾したみたいです~)


「ふむ……」


 快諾、か。とりあえずの心配はないようだが……。


 それにしても、医療の知識がないソフィアに治療の依頼とはね。


 カイル。ソフィアの幼馴染の少年か。

 僕とはあまり関わりがなかったけれど、差し迫った状況でソフィアが頼りになると理解している程度にはソフィアと近しいらしい。


 あらかじめ知ってはいたことだ。


 彼の名前も。彼の素性も。彼の生い立ちも。彼の思想も。彼の行動も。彼の理念も。彼の資質も。彼の目標も。そして、彼の好意を寄せる相手が誰なのかも。


 最も、それを知った僕が関与することもないのだけれど。


 僕がどれだけ気に入ろうと。僕がどれだけ嫌おうとも。


 全てはソフィアが望むままに。

 それだけが、僕の願いなのだから。


「……心配、か」


 ただ、ひとつだけ心配があるとすれば。


『快諾した』。とエッテは言った。


 ならばウォルフという少年は大丈夫だ。

 ソフィアは出来ないことは約束しない。やると言ったなら必ず為す。そういう子だ。


 でも、「出来る」というのは「やる」ということだ。

 必ず結果を出すと、自分へ約束することだ。


 あの子はなんでも出来る子ではあるけれど、ただそれだけの普通の子だ。そして、優しい子だ。


 他人よりも出来ることが多いからと、何でもかんでも背負ってしまう。


 本来であればあの子が受ける必要のない責任を。重荷を。……そして、痛みも。


 いつか見も知らぬ他人から押し付けられた荷物で潰れてしまうんじゃないかと、心配になるほどに。


「……まだ先なのか?」


 焦りが口から零れた。


 まだ大丈夫だ。ソフィアなら大丈夫だと信じたい気持ちはあるものの、この世に絶対はないと知ってしまった。女神なんて規格外が目の前に現れて、僕に絶望を教えてしまった。


 ――真実を知れば、世界がソフィアを殺そうとするかもしれない。


 ありえない、デタラメだと否定し続けていた呪いは肯定されてしまった。インチキ占い師は正しかった。


 何せ女神本人が口にしたのだ。ソフィアは災いの元であると。

 優しいあの子が自らの死を選ばなかっただけで、それはもう奇跡のようなものだ。


 その幸運をただ甘受するつもりはない。


 あのとき生きることを選んで良かったと。この世に、この家に生を受けて良かったと。そう感じて欲しい。感じ続けて欲しい。


 その為になら、世界から恨まれたって構わない。



『お母様には感謝ですね~。お兄様の妹に生まれて、ソフィアは幸せ者です~』



 あの言葉を、嘘になんかさせやしない。


「あー、この先にある部屋は……」


「キュイ!」


「まだ先だって」


「そうか、もうすぐか」


「……なんで分かんのお前ら? つうかさっきから気になってたけど、その生き物なに? 珍種?」



 ソフィアは強い子だ。そして、同じくらいに優しい子だ。


 あの子が死ぬ所なんて想像したくもないけれど。


 きっと、あの子はそれが避けられないと悟った瞬間、誰にも知らせずに逝く。もしかしたら自分が居たという記憶すらも奪っていくのかもしれない。いや、あの子ならきっとそうするのだろう。


 そんな未来は認める訳にはいかない。


 だから、あの子が世界を守ると決めたのなら。



 ――僕はその世界ごと、君を守るよ。ソフィア。


その決意の数分後。

ネムちゃんへのお礼でうっかり破滅スイッチを押しかけちゃうおちゃめなお兄ちゃんなのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ