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ロランド視点:兄の使命

時は少し戻って。お兄様編。


「はっ! はぁっ!」


 剣を振る。振る。ひたすらに振るう。


 ここではこれが全ての基本だ。


『剣を体の一部として扱えるようになれ』


 その教えに従い、ただ愚直に積み重ねてきた。


 新参者の自分はまだとてもその域には辿り着けそうにないけれど、教えの言葉を心と体で理解できる程度には慣れてきたつもりだ。


 実際、何か掴みかけている感覚もある。


 共に高め合う先輩方に話しても「誰もが一度はそんな勘違いをするものだ」とあしらわれてしまうけれど、僕はこの感覚を勘違いで終わらせるつもりはなかった。


 僕には時間が無い。


 いつもであれば誰もいない修練場の隅へと視線を向ければ、朝から変わらずにそこに居るソフィアが、すぐに気付いて手を振ってくる。


 まるで荒れ野に咲く一輪の花の様だ。


 返事をするように手を振り返せば、その花はより可憐に咲き誇る。

 その美しさに魅了された幾人かの吐息が聞こえる度に、僕は優越感と共に、早く強くならなければとの想いを強くする。


 ――全ては愛しいソフィアの為に。


 剣を嗜むものなら誰もが憧憬を抱く剣聖バルスミラスィル様の元で修練を初めて、自分も少しは彼女に相応しくなれただろうか。


「ふーん。妹ちゃん、かわいいじゃん」


 ――そんな感慨を抱くことすら、この男の前では許されないらしい。


「ええ。かわいい妹ですよ」


 本当にかわいい妹だ。


 だからこそ守りたいと思う。


「ミュラーから聞いてはいたけど、実際に見るとまるで印象が違うな。ただのお人形さんにしか見えねぇ」


「そうですか。それよりもあちらに移動しましょう。広い方がお好きでしょう?」


 ソフィアが来た時から興味を持たれることは分かっていた。


 それでも、この男は変わり者だ。

 万が一という可能性に期待したかったのだが……やはり無理か。


「んー? なんだ、もっと見させろよ。それともかわいい妹を俺の目に入れたくないってか?」


「ええ、そうですね」


 女性を性欲の対象としか見ていない獣が。


 ソフィアの前ではひた隠しにしている攻撃的な本性を少しだけ覗かせて、有無を言わせずに場所を移させた。



◇◇◇



 その知らせが来たのは、模擬戦の最中だった。


(ロランド様、緊急です~)


「っ!」


「どうしたロランド! 集中しろ!」


 集中? できるわけがない。


 くそ、前の相手ならすぐに終わらせられたのに。来たのはエッテか。なら……。


「ぐっ!」


「ちょっ、ロランド!? あーあー、何やってんだよもー」


「すみません、ヘマしました。少し休ませてもらいます……」


 親指の付け根は剣を握るのに大切な部分だ。このまま続けさせるような無学な人間はこの場にはいない。


「ロランド」


「……師範」


 だが、優秀すぎる人材なら山程いる。


 その筆頭である師範が見逃すはずはない、か。


「わざと怪我をするように受けたな? 何故だ?」


「……急用が入りまして。少し抜けさせて頂こうかと」


 ふん、と気に入らなそうに鼻を鳴らす姿はソフィアの友人たちに囲まれていた時とは別人のようだ。


 自分に絶対の自信を持っている、武人。そんな言葉が浮かぶ。


「『自分を大切にしない者が他人を守ることなどできない』。以前教えたはずだが」


「よく覚えております」


 鋭い眼光で睨まれようと引く気は無い。事態は一刻を争うかもしれないのだから。


(ご主人様に身の危険はありません~)


 そうか。それでも、心までがそうとは限らない。


 このまま師範が折れるまで粘るか。それとも、ある程度の情報は開示するべきか。迷っていると。


「……えっと、コンコン。あの、今、いい、ですか?」


 本館に繋がる扉から顔を覗かせていたのはソフィアの友人である少女だった。


 名前は、そう。ネムちゃん。

 ソフィアが自分に並ぶかもしれないと評した魔法の得意な子だったはず。


 そしてなにより、その子の足元にはエッテがいた。


「迎えが来たようです。ああ、今行く! 少しそこで待っていてくれ! では師範。申し訳ありませんが」


 話はこれで、と打ち切ろうとすると。


「まあ待て。ロビン! お前、ロランドに着いてけ!」


 師範は大声を上げて一人の男を呼んだ。


「はぁ~? 怪我の治療くらい一人で行かせろよ、子供じゃあるまいし」


「サボらせてやると言っとるんだ。黙って行け」


「お、マジで? ラッキー。あ、さっき爺ちゃんにぶら下がってた子じゃん。どしたの?」


「え? んっと、この子がね。えっと」


 早速女の子に絡みだした性獣を胡乱な目で見ていると、師範は「すまん」と軽く頭を下げてきた。


「アイツを嫌っとるのは分かるが、頼む。大切な用のようだからな。お主とソフィア嬢の関係を見れば、彼奴(あやつ)も何か変われるかもしれん」


「……分かりました」


 とてもそうは思えないが。


 ただ、家族には幸せになって欲しいという師範の気持ちは理解できる。


「では、少し外します」


「ああ」


 問題なく抜けられたのはいいが、思ったよりも時間を取られたな。


 急ごう。ソフィアの元へ。


ソフィアのブラコンとロランドのシスコン。果たしてどちらが重症なのか。

どっちも重症だね。

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