ロランド視点:お姉様と姉さん
僕の姉妹は、お互いのことを好きすぎると思う。
妹のソフィアに家庭教師がついて数日後。多分、貴族の教養として言葉遣いの勉強をしていたんだろう。
その日、姉上から「あとで話があるから」と呼び出された僕は、また妹のことかなと当たりをつけた。
二歳違いの妹は家族の贔屓目を抜いてもとても可愛らしいし夢中になるのも分かるけど、妹が好きすぎて暴走気味の姉上を見ていると、ああはなりたくないなと冷静になれる。
「ソフィアが今日から私のことは"お姉様"と呼ぶらしいの! 私は一体どうしたらいいの!?」
おねえちゃんと呼ばれたいけど、お姉様と呼ぶソフィアも背伸びしているのが可愛らしく思えて悩ましいそうだ。
好きにしていたらいいと思う。
それにソフィアだったら、姉上が頼めば望むとおりにしてくれるはずだ。
そう思った通りに言ってみても姉上の興奮は治まらない。
頼んで言って貰えるのも嬉しいけど、自発的に呼んで甘えて欲しいそうだ。
確かに、僕もソフィアにお兄ちゃんと呼ばれる時は甘えられている感じがして、兄としてしっかりしようと思わされる。
姉上がお姉様と呼ばれるようになったように僕もお兄様と呼ばれるようになって妹の成長を実感したし、同時に歳の近い兄弟として見本にならなければと勉強も頑張った。
かわいい妹に、とても手を抜いているところなんて見せられないと思う。
「ロランドも大概ソフィアのことが好きよね」
否定はしない。
ソフィアはいい子だし、甘えられて嫌がる人は家族じゃなくてもいないんじゃないかとは思うけど。
それは姉上にも言えることだ。
だから相談事でもなんでも、僕にできることならしてあげたい。
それで話っていうのは、気が向いたときにはおねえちゃんって呼ぶように僕の方から言えばいいのかな。
「それもお願いするけど、今日はロランドにお姉ちゃんと呼んでもらおうと思って!」
嫌だよ。恥ずかしいよ。
着せ替えられたり、抱かれたり、名前を呼び合ったりするのは全部ソフィアに譲れたと思ったのに、まさか機会を狙っていたの?
姉上は姉上でいいじゃない。
「やぁだ! お姉ちゃんがいい! お姉ちゃんって響きがかわいいの!」
そんな、駄々をこねられても……。
困ったな。
僕も男だし、姉上のことをお姉ちゃんなんて呼んでたら友達に馬鹿にされちゃうよ。
困ったな。
お母様や姉上にこんな風に甘えられると、いつも最後には断りきれなくなっちゃうんだよ。
ちなみにソフィアはこんなわがままは言わないからあんまり困らない。
でも、この年にもなってお姉ちゃんはさすがに……。
「そんなに抵抗あるの? 仕方ないから姉さんで我慢してあげるわ。これから二人きりのときは姉さんって呼んでね!」
姉さん……姉さんか。それならまぁ、いいかな。二人きりのときだけなら、うん。
僕が姉さんと呼ぶと、姉さんは本当に嬉しそうに笑う。
そんな顔をされちゃうから、僕は家族のお願いを断れない。
何回も、何回も、姉さんと呼ばされてちょっと疲れちゃったけど、姉さんは満足できたみたい。よかった。
その後、結局ソフィアにはバレちゃったけど、今でも姉さんと呼ぶのはなんとなく続けている。
姉さんには絶対秘密だけど。
姉さんのこと姉さんって呼ぶの、結構好きかもしれない。
「優秀みたいだから頑張ろう」「お姉様のお友達と遊ぼう」の間の話