表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
327/1407

涙の重さはパンチ一発


 女の子には優しくするべきだ。


 ということを女の子の側から提唱すると「自分で言うの?」って顔をされることも多かったけど。


 女の子には、優しくしてください。


 女の子からのお願いだゾ♪



「――ってことを言ったの。カイルに。そしたらアイツなんて言ったと思う? 『そしたらお前今以上につけ上がるじゃん。どんだけ甘やかされたいの?』だって! 酷くない!?」


「そ、そう……」


 ミュラーが若干引いてる気がするけども、今更止まれる気がしない。


 だってカイルってば本当にデリカシーに欠けてて!


 せっかく顔はいいんだからもっとこう、気弱だけど優しくて気遣いができて料理が得意でよく作りすぎたお菓子のお裾分けを持ってきてくれる系幼なじみみたいな感じで私に都合の良い存在であればいいのに!


 幼い頃は悪ガキ系、成長してきた今はお説教系の男幼なじみとか誰得なんだって話ですよ!!


 テメー説教できる立場かよと! 今更いい子ぶってるんじゃないよと声を大にして言いたい!!


 私は! 生意気なショタは好きだけど! ちょっとおバカで簡単に言いくるめられる程度の生意気さが良いのであって!


 言い負かされる側になるのとか超がつくほど嫌いなの!!!


「しかも。しかもだよ!?『いくらでも甘やかされたいに決まってるでしょ』って答えたら『お前は周りの人達がどれだけ優しいか知った方がいい』って上から目線で! 知ってるっての! アンタ以外はみんな優しいっての!」


「あの、ソフィア怒ってるの? だって学院だともっと落ち着いてて」


「学院だと猫被ってるから」


「あ、そ、そうなの……」


 つーか学院でだってもっとお淑やか系でいくつもりだったのに、それだってカイルが邪魔して!


 あー………………。ダメだ。


 怒りが。怒りゲージが。

 カイルにお仕置きしたいゲージが限界点を突破しました。これはもうカイルで鬱憤を晴らすしかないね。


 カイルで溜まった鬱憤はカイルで晴らす。実に正しい行いと言える。


「ちょっとカイルで憂さ晴らししてくる。ミュラーの分も懲らしめておこうか」


 そうじゃん、今なら大義名分もあるしね。

 女の子を泣かせた罰としてなら腹パンくらいは余裕でいける。


 いつもはあんまり暴力的な手段は取らないんだけど、今はなんだか……ここに並んでる甲冑の腹を全部へこませてやりたいくらいだ。


 あー、でもカイルのお腹は甲冑ほど丈夫じゃないだろうからなぁ。


 ちゃんと手加減しなきゃだね。

 まあ手加減に失敗したとしても、今日はエッテもいるから問題ないかな?


 ならいっそのこと……。いやいや、それはさすがに……。でもたまには……。


 カイルへの適切なお仕置きレベルを検討してたら、ミュラーが慌てた様子で声を上げた。


「え!? いえ、カイルはそんなに悪くないというか、むしろ私が謝るべき立場で」


 さっきまで泣いてたってのに、ミュラーってば優しいんだから。

 その優しさはウォルフに向けた方がいいと思うよ?


「いいのいいの、カイルだし。で、私は戻るけど。ミュラーはどうする――」


 ガシャ。


 どこからともなく聞こえてきた金属同士の擦れる音。


 私たち二人しかいないはずの空間に、その音はやけに大きく響いた。


「……何の音?」


 耳を澄ましても、続く音はない。


 けれど、聞こえる。息を潜めた何者かの息遣いが。息遣い()()が。


 心からわき出た不安を払ってくれる灯りはここにはない。


 場所も悪かった。

 この物置の奥からでは唯一の出口である扉も遠く、その事実が精神の安寧を脅かす。


 棚に。鎧に。木箱に。布に。


 人が潜める暗がりなんていくらでもある。


 ……ただ、私の勘違いという可能性もなくはない。


 ネズミかなにかが武具を動かしたのかも、なんて自分でも信じていない可能性を埋めるべく、部屋に入る前にも使った生体感知の魔法で小動物まで見落とさないよう調べてみるが。


 結果は予想通り。


 部屋の中にも、屋根裏にも。廊下どころか近くの部屋にすら反応はなし。


 つまりこの部屋には、間違いなく私たちしかいない。


「何って……積んであった剣が崩れたとか」


 お気楽なミュラーが羨ましい。


 私だって気の所為だと笑い飛ばしたいけど、違う。確かに何かがいる。


 魔法に反応がない以上どこにいるのかは分からないけど、何かが潜んでいる気配がある。確実に、何かがいる!


「気を付けて、ミュラー。この部屋、何かが――」


 そっとミュラーに近付いて注意喚起をしようとしたまさにその時。


 ガシャン。


 また聞こえた。しかも、割と近い。


 音の聞こえた方に振り返り、暗闇でもよく見えるように魔法で視界を確保――するまでもなく。


 ガッシャアァァァン!!


「わああぁぁぁっ!」


「きゃぁぁぁああ!」


 一体の甲冑がけたたましい音を立てて倒れ込んできた。


 しかもなんか動いてる!! 倒れ込んだままもぞもぞと手足をばたつかせて――。


「ばぁあ、えぐぁいあ。えあ、ぁぁぁあああーーー」


 しゃべってる!? もしかしなくても喋ってるの!?

 なにこれナニコレなにこれ!?


 助けてお兄様ああぁぁぁ!!!


うごく鎧があらわれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ