ペットに名前をつけよう
「ペットに名前をつけようと思います!」
「わーぱちぱち」
「それで僕たちを呼んだんだね」
私の部屋にお姉様とお兄様が揃っていた。
私が呼んだ。
用件はもちろん、このたび無事に我が家のペットとして認められた、私がフェレットと呼ぶ元・鎌鼬の二匹である。名前はまだないので、今はフェレットと呼んでいる。両方。
「それにしてもかわいいわよね。ソフィア、お手柄よ」
「姉さんじゃないけど、確かにかわいいよね。フェレットっていうんだっけ?」
我が愛しのフェレットちゃんズは家庭内の新入りなので、立場の向上を目指して布教活動をしているのだ。
というわけで、それぞれに一匹ずつ抱いてもらって既に感想もいただいている。
曰く。
もふもふ。かわいい。ソフィアにぴったり。
私にぴったりというのはよく分からないけど概ね好意的に受け止められているようだ。
「フェレットというのは私が勝手に呼んでいるだけです。お母様も見たことのない動物みたいで」
我が家の子供勢の人気を勝ち得たフェレットたちだが、その正体が元魔物だというのは秘密にしている。
もちろん先入観で怖がらせないようにという配慮だけど、魔物に詳しいお母様によると今のこの子達はもはや魔物とは呼べないらしい。
魔物の要件は、魔石と魔力と悪意。
この子達は魔力も悪意もなく、魔石もたぶんあるだろう、という曖昧な状態。
お母様的には魔石を取り込んだ動物という扱いみたいだ。
ともあれ、無事にペットになったからには必要なものがいろいろとある。
餌や棲家、汚物の掃除。
数多発生する雑多なお世話を誰がするのか。
全部私の役目です。
私が飼いたいって言い出したんだし当然だね。世話をすれば必然的に一番かわいがれるし、役得しかない。
「かわいすぎて全てがどうでもよくなりそう」
「姉さん、気をしっかり持って」
冷静に見えるお兄様も胸に抱いたフェレットの頭をずっと撫でているし、かなり気に入られた様子。
よきかなよきかな。今回の布教活動は大成功といえよう。
にしてもお兄様は撫でるのが上手みたい。
お姉さまに撫でられてる方は澄ましてるのに、お兄様の方は気持ちよさそうにうっとりしてる。私でもあの表情はさせられない。ちょっぴりジェラシー。
というかお姉様もうっとりしてる。もう半分寝てるかもしれない。
「お姉様、全力でかわいがる前にこの子達の名前を決めてあげたいのですけど」
放っておくと私たちの存在すら忘れて二人だけの世界に行ってしまいそうだ。その前にせめて案のひとつでも欲しい。
「ソフィアが決めてあげる方がいいんじゃない~」
「僕も姉さんに賛成。ソフィアに懐いているみたいだしね」
お姉様の気が完全に逸れてしまっているのを感じる。
もはや顔すら向けてくれない。
「ん? この子って男の子なの? 女の子なの?」
引っくり返して身体中を撫で回していたお姉様がそんな声を上げた。
言われてみれば、確認していなかった。でも元魔物だし性別あるのかな。
「どうなんでしょう?」
「うーん、僕もよく分からないな」
そもそもフェレットの雌雄の見分け方すら知らない。いや、フェレットじゃなくて鎌鼬だとしても、妖怪の雌雄なんてもっと知らない。妖怪って性別あるの?
「きゅーきゅー」
「キュウ?」
お姉様がきゅーきゅー鳴きだした。性別を聞いているらしい。
お兄様はフェレットを持ち上げて、その……股のあたりを見ている。
「メスかな?」
「お兄様、それはちょっと……」
「破廉恥! 破廉恥だわ!」
私とお姉様に糾弾されてもお兄様はポカンとしている。己の罪を自覚していない。
「え? なにが?」
「なにがじゃないでしょ! その子をこちらに渡しなさい!」
ほら! ほら! と手招きしている。
が、大声に驚いたのか二匹のフェレットは二人の手から抜け出して私の膝の上に飛び乗ってきた。
「あぁっ!」
己の手から逃げ出されたお姉様が絶望の声を上げた。そんな声を出されても困るのだけど。
「性別が分からないなら仮の名前がいいかもしれない。フェレットという呼び名を分けて、フェルとエッテというのはどうかな?」
お姉様の追求が逸れたのを幸いとお兄様がいい名前をつけてくれた。センスある。
「そうですね。かわいい名前ですし、大きい子をフェル、小さい子をエッテと呼ぶことにします」
確かに、今までフェレットフェレットと呼んでたせいか、自分の名前フェレットって認識してそうなところあったし因んだ名前はいいかもしれない。
思ったよりすんなり決まった。お兄様に相談してよかったね。
でもさらっと話を逸らすあたり、お兄様も結構強かなところがあるよね。将来は優男で策士タイプになりそう。うーん、アリだね!
名前を決めた後も三人と二匹で仲良く過ごしましたとさ。めでたしめでたし。