私のカレンちゃんがぁ……
……どうしてこうなった。
剣術の時間。女子たちの集まる一角で、その騒ぎは起こっていた。
「ミュラーさんと打ち合ってるあれ、カレンさんよね?」
「休んでいる間に一体なにがあったのかしら……」
ミュラーとカレンちゃんが木剣を合わせる度に、ゴギィン!! とありえない音がする。
お互いの武器に魔力を流しているからこそ折れずにいるが、あんなに強化したら木剣で打ち合っている意味が無い。普通に当たれば死ぬ。死んじゃう。
「数日で腕を上げたわね!」
「まだまだっ、これから! 強くなるからね!」
本来止める立場であるはずの教師は何故か泣きながらしきりに頷いているだけで役に立たないし、割って入れる力量のある生徒たちは「やるなぁ」とか言っちゃって完全に観戦ムード。となれば、わざわざあんな危ない中に突っ込む物好きもいない。
私のパートナーだったネムちゃんもすっかり二人の戦いを見に行ってしまったので、私は観戦者たちの邪魔にならないよう端の方に移動して、独り寂しく素振りをしていた。
「……カレンちゃんが壊れた」
もしかしてやっちゃったかな、なんて思いつつ、私は今日の出来事を振り返っていた。
◇◇◇
事の始まりは、例のカレンちゃんの体質絡みではあった。
カレンちゃんが魔道具に頼らずに生活できるよう手助けしたまでは良かったんだけど、さすがに長年の問題を一日で解決したのはやりすぎたらしい。あまりに性急すぎたせいで家に帰ってから大分ゴタゴタしたんだとか。
結果、カレンちゃんが学院を休むこと三日。カレンちゃんのお父さんが私の家に突撃すること二回の事態になったらしい。
何度聞いても私が不在時を狙って家に来た理由が分かんなかったけどね? 要件は私でしょうに、ならせめて学院が終わった頃に来てくださいよと。
そんな非常識な時間に来るもんだから、おかげでどれだけお母様に呆れられたことか!
「大人でも取り入るのが難しい有名人にばかり恩を売って。騎士団でも掌握するつもりですか?」とか言われても知らないよ! お友達がたまたま関係者の身内だっただけだよ!
まったく失礼しちゃうよね。
そんなこんながありつつ、しかし悩みが解消されたのだから当然、喜びもする。
カレンちゃんはお休みの間中、身体は本当に大丈夫なのか。健常者と同じように生活できるようになったのか。という検査、の名目で、ひたすらお父さんと剣の稽古をしていたらしい。
力加減がしやすくなった代わりに《豪腕》の名の相応しい超パワーを今までのように無意識では出せないようになってしまったので、その訓練をしていたんだとか。
その超パワーがないのが普通なんだけどね。
で、休んでた三日間。
たったそれだけの期間でカンを取り戻せたみたいですよ、彼女。ははっ、ありえなくない?
私もさ、カレンちゃんの体質を再現してみたのよ。あの出力は魅力的だなーって思って。
改めて考えるとカレンちゃんの暴発プロセスって攻撃魔法使う時と同じなんだよね。
魔力を溜めて、撃つ。
魔法の場合は手に溜めて体外に放つけど、カレンちゃんの場合は身体の中心に溜めて体の一部で使うってだけで、流れは大して変わらない。
だからかるーい気持ちでね。ちょっと試してみようかなってなるじゃん? なるよね?
その結果…………ィイッタァ!! ってなったよね。
実験程度の少量の魔力移動でこれだかんね。手加減してなかったら手が吹き飛んでるよホント。
カレンちゃんどうやってあんな出力だしてんの? なんで腕死なないの? ロボなの? 実は改造されたサイボーグだったの? って感じだったよ。最初はね。
で、調べました。試しました。色々と。
その結果、そもそもが私の身体強化と方法が違うんじゃないかと思いまして。
まあ一言で言っちゃえば「慣れ」ってことなんですけどね。
ぶっちゃけ私の体じゃ無理。
身体の強化に余分な魔力を使えばできるけど、それでも負荷がすごいからどうしたって痛いし。痛いのやだから、真似するのはナシになった。
だからカレンちゃんが、せっかく治ったのにわざわざ痛い方法をもう一度身につけなおしたって聞いて思わず「すごいね」って言っちゃったんだよね。「そんなの私にはできない」って意味で。
そしたらなんかすっごい喜んじゃってー!
だってカレンちゃんって、今までだったらガリ勉キャラじゃん? 剣術へろへろだったじゃん?
それがたった数日で脳みそ筋肉さんみたいになるなんて予想できないでしょ!
「ソフィアのおかげだよ」まではいいのよ。普通じゃん?
でも「ソフィアの為にも私、強くなるから」って言われたら、んんー? ってなるじゃん。頼んでないじゃんそんなこと。
だから当然「強くならなくてもいいよ?」って言ったら、カレンちゃんはなんて言ったと思う?
「……ありがと。今は頼りないかもしれないけど、信じて待ってて」だって。
違う、そうじゃないんだよ。
あの瞬間、私は悟ったね。
カレンちゃんはきっとクラスチェンジしたんだ。秀才から脳筋に……。
現実はいつだって辛いものなのだ。




