聖女への勧誘、お兄様編
悪意の塊?
結構、好きに呼ぶが良い。寛大な心で全てを許そうではないか。
今の私は大変に気分が良い。
もちろん愛しのお兄様のおかげである。
言葉巧みに騙して聖女なんて面倒そうな地位に就けようと画策するお母様と、繊細でデリケートなガラスハートを散々いたぶって弄り回して貶しまくってくれたリンゼちゃんによってボロボロになった哀れな私を癒してくれた、超絶心優しいお兄様のおかげである。
「キュウ」
「キュイ」
あとこの子達のおかげね。よーしよし撫で撫で~♪
お兄様に頭を撫でられながら、中断した話の内容を考える。
聖女ねぇ。
んで、世界の危険がアブなーいってのに私も一枚噛んでるとはねぇ。
リンゼちゃんと話すのは好きなんだけどさー、そろそろ怖くなりそうだよ。トラウマになっちゃう。
リンゼちゃんって色々知ってるしその知識のびっくり箱みたいなトコが好きでもあるんだけど、情報の偏りがさ。その、なんていうか。
私の心臓止めかねない情報ばっかし多くない?
そりゃあね、わざわざ人間の真似事するためにリンゼちゃんという肉体まで作って私のメイドさんなんてやってるくらいなんだから、情報が私の周辺に偏るのは仕方ないでしょうよ。
でも伝え方にもうちょっと優しさが欲しいよね。
リンゼちゃんが私好みの幼女じゃなかったらそろそろ解雇してるぞ。
もしかしてそこまで計算の上なのかな? くっ確かに有効だ。女神の慧眼、恐るべし。
「ソフィア、落ち着いたかい?」
「まだです。だからもっと撫でてください」
ああ~お兄様のお膝のうえ最高なんじゃ~。
ソフィアもうここで暮らす~。優しさに溢れたお兄様の声だけ聞いてた~い。お兄様に撫でられて、フェルたちを撫で続けるだけの生活した~い。
「ならそのままでいいから聞いて欲しい。実は僕も、ソフィアは聖女になるのがいいと思ってるんだ」
え~そうなの~? お兄様がそういうなら、聖女やろっかな~?
「もちろん決めるのはソフィアだ。無理強いはしない。僕も母上も、ソフィアの幸せが一番だからね」
はぁ~とろける。脳がとろける。お兄様の優しい言葉ってどうしてこんなに心に響くんだろ。うぇへへ、ニヤけが止まらん。
「ただ、リンゼからソフィアの動向を聞いていて、既に聖女になるつもりだと勘違いしていたことも事実だ。早とちりしてソフィアを困らせてしまった。すまない」
「そんな、お兄様が謝ることではありません!」
ああっ、でもその頭下げるのはイイ! なんかこう、恋人が髪に顔を埋めてるみたいで、とてもイイです! ドキドキする!
お母様が胡乱げに見てるけど気にしない。ってああっ! ……すぐに離れちゃったけど、大丈夫。まだ余韻は残ってる。
今のいいな。もう一回やってもらえないかな。いや次はハグとかでもいいな。お兄様最高。
そんな願いが通じたのか、お兄様はなんと、右手を私の太ももの上に置いて、トン、トンと指で遊びだしたのだ!! なにこれ! なにこれお兄様最っ高!!
頭の上で「どうしようかな……」と呟いてたのが聞こえた気がするけど、そんな事より今は目の前のお指様に! どうアクションを起こすのが正しいのか! それが一番大事!!
どうしようかな、本能のまま捕まえていいのかな。それとも好きにさせてあげるべき? なんて色々考えてたら、お兄様の手がスっと離れて、ああああ時間切れェ!!
「実はソフィアが聖女になると思っていたから、王様とある約束事をしていたんだ。けど、それも無駄になるかもしれないね」
お、お兄様。今はそれどころでは。
いや、慌てるのは良くない。落ち着け。
ここで暴れて「もういいのかい?」とか言われて膝の上から降ろされては堪らん。
私はいい子のソフィアちゃん。お兄様の話は黙って聞きますとも。
「女神様の代行者たる聖女ともなれば国の重要人物だろう? それに聖女としての任に武力が必要なことだってある。その為、聖女には好きに使える武力集団として聖騎士団が付けられることになっていてね」
え、聖女って武力いるの? 聞いてないけど?
まあリンゼちゃんは私の万能な魔法のこと知ってるから、それで選んだってのもあるのかな。
にしても、聖騎士団って……また厨二力の高そうなものを。
ルビを降るなら聖騎士団とかかな? ぷぷっ、ウケる。
「聖騎士は、常に聖女と共に在る。陛下には、もしもソフィアが聖女になるんだったら僕がその隊長となるようお願いしてあったんだ」
「なります。聖女、やります」
聖騎士は、常に聖女と共に在る。なにそれ最高かよ。
「え? いいのかい?」
「お母様もリンゼちゃんもそれを望んでいるようですし、断る理由もありません。聖女の任、お引き受けします」
おいおいマジか。こんなことってある?
つまりこれで、私は卒業後も家を出る必要はなく、しかも家でも仕事先でも四六時中お兄様と一緒にいられるってことでしょ!?
私の時代来たでしょコレ!!
即落ち聖女様マジちょろいん。
寂しがらせてからの「ずっと一緒にいられるよ」コンボ発動のお兄ちゃん様マジシスコン。




