聖女への勧誘、リンゼちゃん編
何故かは知らないけど、お母様が私を聖女にしたがってるっぽい。
最近鬱陶しくなってきた見合い話とかが全部なくなるのはいい話だとは思うけど。最高権力者で悠々自適な生活とか、いい話だとは思うけどっ!
どーーー考えても話がうますぎる! 怪しい! 怪しすぎるう!
これはきっと罠に違いない。
特別優秀な頭脳でその結論にたどり着いた私は、なんとかお母様の誘惑を振り払うことに成功したのだけど……。
お母様に続いて、従順なメイドであるはずのリンゼちゃんまでもが私に聖女となることを迫ってきて!?
負けるなソフィアちゃん! 甘い言葉に騙されないで! 第二幕。
ここに開演~、わ~ぱちぱち~。
――そんな感じで。
「聖女になりたくないの?」
「なりたくない」
リンゼちゃんとお話し合いをしております。
今んとこ、私が一方的に断ってるだけだけどね。拙者働きたくないでござるぅ。
ていうかこれってよく考えたらさ、私が聖女になったらつまりはリンゼちゃんの下で働くことになる訳だよね。
それって今の私とリンゼちゃんの関係を逆転させたみたいなもんでしょ? ちょっと楽しそうだよね。だからって聖女なんてやる気ないけど。
「なぜ?」
リンゼちゃんは心底不思議そうに首をかしげた。
なぜ聖女になりたくないのか。その理由を一言で表すなら。
「なんだか嫌な予感がするから」
「……それだけ?」
「それだけ」
そもそも聖女がなにかよく知らないし!
誰かに聞こうにもお母様は与える情報操作しそうだし、ってそうだ。リンゼちゃんだったら正確に教えてくれるかもしれない。
神様視点での聖女が普通の人の認識と食い違う可能性もあるけど、なにせ聖女の雇用主にあたる女神様本人の話だもん、問題ないよね。
「そもそも聖女ってなんなの? どんなことするの?」
「……それを知らないで……、いえ、いいわ。頼みたいのは主に世界の魔力の調整ね。かなり不安定になっているから」
おぉ、なんか女神っぽい。具体的に何するのか全然伝わんないけど。
でも重要そうなのは分かった。しかも。
「かなり不安定なの?」
「ええ、そこそこ危険な状態ね」
……リンゼちゃんのそこそこって、結構危ないんじゃないかなぁ。
一気に不安になってきた。
「その聖女の役割って、リンゼちゃんがやるんじゃダメなの?」
「私にそんな力はないわ。それと女神がその対処をした場合、少しの手違いで数年間魔力の存在しない世界になるくらいの覚悟が必要ね」
なにそれめちゃくちゃ困るじゃん。主に私が。
魔法が使えなかったらただの愛らしい美少女になっちゃう。
「あれ、全ての生命には魔力が宿ってるみたいな話なかったっけ? 魔力が世界から消えたら人ってどうなるの?」
「今の生物は魔力に慣れすぎているから……そうね。人なら人口が半分以下にはなるんじゃないかしら。寿命も減るでしょうし」
「なんですって!?」
わー、お母様がキレた。
知ってる? このクールな子、この世界を守ってる女神様なんだよ。あんまり守ってない気がするけどね。
こんなんでも一応この世界を大事に思ってるっぽいからこそ、その対処として私を聖女に据えようとしてるんだろうけどさー。
知ってるリンゼちゃん?
今リンゼちゃんがしてること、世間一般では脅迫って言うんですよ?
「お母様、落ち着いて下さい。で、リンゼちゃん。私が聖女になったら、それは解決できるの?」
「できるでしょうね」
淡々とまぁ……ん? あれ? もしかして。
「……それって、別に聖女にしかできないってわけじゃないよね? 聖女にならなくても解決できるんじゃない?」
「そうね。あなたにその気があれば、肩書きでしかない聖女かどうかなんて関係ないわね」
あっぶなーい騙されるところだった! この子悪意なく騙そうとしてくるから油断できないんだよー!
「じゃあなんで聖女にしたがるの!」
そこがわからん!
別にいいじゃんボランティアで! なんなら社会福祉法人リンゼちゃんの会とかでいーじゃん! もちろん代表はリンゼちゃんね! もしくはお母様!
「それはもちろん、その方があなたが喜ぶと思ったからよ。結婚のことはもちろん、自分の不始末は自分でつけるのがあなた流なのでしょう?」
その言葉を聞いて直ぐに、私は自分の耳を塞いだ。
耳に押し当てた手にイタズラするフェルがくすぐったいけど止める気はない。
だって、だって続くリンゼちゃんの言葉は絶対に聞きたくないから!
「――――? ――、――――――――?」
あーあー、聞こえなーい、なーんにも聞こえませーん!
私の不始末なんて、あるはずなーい!
リンゼちゃんの敬語は聖女(or聖女候補)になると特典でつくらしいよ。




