女神の使徒、降臨
「失礼します」
家族会議(お父様を除く)中の部屋に入ってきたのはリンゼちゃんだった。
だが。
だが、しかし!
メイド服じゃない!!
大事なことなので、もう一度言おう。
リンゼちゃんがメイド服じゃない!!!
胸元にリボンをあしらった空色のワンピース! しかも、肩に乗るエッテがリンゼちゃんのかわいさとの相乗効果でその魅力を何倍にも引き立ててててて!!
「そう畏まらないで。今の私は、ただのメイドなのだから」
なるほど、休日のメイドさんスタイルか。分かってらっしゃる。
そのまま興奮する私の目の前――を素通りして、お母様の元に行くリンゼちゃん。
相変わらずクール……ってか、あれ? お母様、なんで頭下げてるんだろ。
「私の言葉を忘れたの? 私は一介のメイドとして接して欲しいとお願いしたはずよ」
「……失礼致しました」
お、お母様がリンゼちゃんに服従しておる。
なにこれプレイ? そーゆープレイなの? 幼女ご主人様とかヤバい、私あたらしい扉開いちゃうかもしれない。
「ソフィア」
「はいっ!」
なになにお母様!? もしや、もしや私もそのプレイに混ざれと!? そして最終的には、三人揃ってお兄様に可愛がっていただけるとでも!!? アリだね!
「ソフィアは既に知っていると伺ってはいるけれど。こちらの方は、女神様の使徒様。畏れ多くもソフィアを神子として用いたいと仰られているわ」
……えーと、なんて? もうちょっと普通に話してくれないかな。
とりあえずリンゼちゃんが敬われてるっぽいのは伝わった。んで、女神の……使徒。
使徒ってなんだっけ、使いっ走りみたいなのだっけ? あと巫女って、神社とかにいるあの巫女さん?
よくわかんないのでお兄様助けて! と振り返れば、穏やかな笑顔で「ソフィアの好きにしていいんだよ」と微笑まれた。よくわかんないけど好きにします!
「リンゼちゃん、どゆこと?」
わかんないことはわかる人に聞く。常識だよね!
そのはずなのに、何故だかお母様に睨まれたんだけど! 私悪くないのに! 急に変な喋り方するお母様が絶対悪いのに! これだから大人は!!
「アイリス様」
「……分かりました」
でもそんなお母様も、リンゼちゃんが声をかけただけですぐに怒りをおさめた。うひょー。
咄嗟にお兄様の後ろに隠れたけど必要なさそう。というかリンゼちゃんが本当に、完全にお母様を支配下に置いている。
リンゼちゃんすごい。リンゼちゃんかっくいー。
クールなリンゼちゃんにはやっぱりこーゆーのが似合うね。今のリンゼちゃん、私より貴族の令嬢っぽいよ!
「ソフィア様。アイリス様とロランド様には、既に私が女神の使徒であると正体を明かしています。勿論、普段は一介のメイドとして扱うようお願いもしてありますが」
正体を明かしたって、正体女神様でしょ。全然明かしてないじゃん。
まあお母様の反応を見れば、女神本人だって知ったらずっと平伏してそうな雰囲気あるから隠したくなるのはわかるけど。
それよりもお兄様が平然としてるのはさすがだよねっ。
いつもより少しだけ緊張はしてるみたいだけどそれだけで、っていうか所詮リンゼちゃんなんて見た目はただの女の子なんだから、むしろお母様がビビりすぎなんだと思うんだけど。
「女神の使徒とは『女神の意を伝えるもの』。聖女とは『女神の意を為すもの』。それ故に私は、これより先もずっとソフィア様付きとなる予定です」
あっ、リンゼちゃんまた説明が飛んだよ? 聖女はどっからきたの? あと「それ故に」は「どれ故に」なの?
話の流れからわかるっちゃわかるんだけど、認めたくない。
聖女と聞くと、聖女ちゃん聖女ちゃんうるさい王妃様が浮かんでちょっとげんなりする。
王妃様も面白い人には違いないんだけどね。
王妃様と言えばアーサー君かわいかったな、と楽しい思考に現実逃避してたら、なぜかリンゼちゃんが私の前に跪いた。
「ソフィア様にはこれより聖女として、女神の手足となり働いていただきます。よろしいですね?」
「嫌だよ」
急になんなの。リンゼちゃんったら変な事言うね。
女神としての仕事なんてないって前に言ってたの知ってるし、なにより私のメイドさんであるリンゼちゃんが私の為に働くならまだしも、ご主人様がメイドさんの為に働くとかどー考えてもおかしいでしょ。
……おかしいよね?
私、間違ってないよね? なのにこの空気なんなの?
なんでお母様もお兄様も凍りついて、しかもリンゼちゃんまで珍しく驚いた顔してるの? 私が趣味には全力だけど義務にはほどほど主義なの知ってるよね?
「……嫌だよ?」
念の為、もう一回だけ言ってみた。
あとリンゼちゃん。その喋り方なんなの?
女神様の使徒様に対して不遜極まる我が娘に、アイリスは混乱している!!




