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メイドさんとドライヤー


「今日は色々と大変だったんだよ〜」


「そう。それはいいからこちらに来なさい」


 お風呂から戻ると、もはや精魂尽き果てたとベッドに身を投げ出した。


 あうーと全身で気だるさを表現しているというのに、専属メイドのリンゼちゃんは今日もクールである。でも髪を乾かしてもらう立場なので大人しく移動した。


 ドライヤーの魔道具と(くし)を手にして準備万端なリンゼちゃんの前に置かれた椅子に座る。首元に手を入れ、お風呂上がりで湿り気を含んだ長い髪を全て後ろに流した。こちらも準備完了である。


「今日もおねがいしまーす」


「はい。というかあなた、ちゃんと拭きなさいといつも言っているでしょう。こんな状態でベッドに上がるなんて何を考えているの?」


「えへへ、ごめんなさい」


 まったくもうと言いながらタオルを取り出し、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのが嬉しい。


 謝りはしたものの、この甘え癖はまだしばらくは抜けない気がする。みーんな私に甘々な生活さいこうなんだもーん。


 目の前に置かれた鏡の中で動くリンゼちゃんは小さいながらもちゃんとメイドさんの仕事をこなしている。


 かわいくて優秀な私だけのメイドさん。


 でもこのメイドさんは、私にちょっとだけいじわるなのだ。


「ねぇ、リンゼちゃん」


「なに?」


 あらかた水分は拭き取れたようで、改めてドライヤーを装備したリンゼちゃんが鏡の中から姿を消す。私の髪は長いから、リンゼちゃんも座りながら作業するのだ。


「やっぱり私の前でも年相応に振舞ってくれない?」


「やめておくわ」


 つれない。


 以前お母様の前では「いってらっしゃいませっ(うるるんっ)」みたいなことをやってると聞いてから何度もお願いしているんだけど、このクールなメイドさんは中々そのかわいらしい姿を私に見せてはくれないのだ。


 私リンゼちゃんのご主人様なのにぃ。


「リンゼの主人として命令します!」


「お断りします」


 すげない。


 まあ今はこういう関係だけど、リンゼちゃんの正体はかの女神様だ。命令なんてできる立場じゃないのは分かってる。


 でもリンゼちゃんに媚びた対応してもらいたいんだよなー。

 この万年クール系少女が感情豊かにお話してくれたらそれだけでもう最高だと思うんだよねー。


「どーーーしても、ダメ?」


「……はぁ」


 逃げられないのをいいことに三度お願いしてみたら、仕方ないですね、みたいな溜息をちょうだいした。


 でも残念。これダメなパターンなんだよね。

 おっけーな時は「……分かったわ」ってしぶしぶ言うのだ。もう知ってる。


「前にも言ったけれど、私はあなたのためを思って言っているの。あなたが私を見てもだらしのない顔をしないのだったらしてあげるわ」


「そんな顔しないもん」


「いいえ、してるわ」


 かなしい。


 なんかね、リンゼちゃんが言うには、私って甘えっ子モードのリンゼちゃんを見るととても人様には見せられない顔になるらしいんだよね。


 それはさすがにリンゼちゃんの主観だとは思うんだけど、少なくともリンゼちゃんが私の前でかわいらしい姿を見せてくれないのには変わりないわけで、ご主人様はとてもかなしいです。


 しゅーんと落ち込んでいると、鏡の中にリンゼちゃんが。私の肩の上から顔を出しているのが見えた。


 私と目が合うと、未だに何を考えているのかイマイチ掴めない無表情がコマ送りのように切り替わり――。


「ソフィア様っ、お加減いかがですか?」


「!?」


 一瞬だけ、とびきりかわいい女の子になって、すぐに戻った。


「もう一回! もう一回やって!!」


 もー、リンゼちゃんったらいたずらっ子なんだからー!

 こんなサプライズでソフィアお姉ちゃんをどきどきさせて、一体なにが目的なんだー? またお菓子でも欲しいのかなー? んー?


「やらないわよ。それより、ほら。自分の顔を見てみなさい」


「私の顔とかどうでもいいから!」


「いいから見なさい」


 あうっ。

 リンゼちゃんに振り向いていた顔をグイッと無理やり前に向けさせられた。


 視線の先。鏡に映っていたのは、幼いメイドさんに頭を掴まれ締まりのない笑顔を浮かべた――。


 キリッ。


「見たわね?」


「リンゼちゃんのかわいい顔なら見えたよ」


「あなたの貴族にふさわしくない顔の話よ」


 きびしい。


「この愛らしいソフィアさんを捕まえてなんてこと言うの。証拠は? 証拠ないでしょ?」


「そうね。私があなたの前でさっきみたいな行いを二度としなければ、証拠は出ないわね」


「ごめんなさい」


 素直に謝れば、リンゼちゃんは髪を乾かす作業を再開した。


 むーん、リンゼちゃん手強い。


「あっ、でもさでもさ、この部屋には私たちしかいないんだから、貴族らしくなくてもいいんじゃない?」


「あなた一人でだらしのない顔をする分にはなにも言わないわ」


「そうじゃなくてー!」



 お風呂上がりの、たわいのない時間。


 今日の夜もこうして更けて行くのだった。


お姉ちゃんぶってるくせに世話を焼かれまくるダメ姉の図。

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