説明するのって難しいね
カレンちゃんが長年頼ってきた魔道具はその実、【豪腕】の力を抑えるのになーんの意味もないただの飾りでしたとさ!
心苦しいけどこれ、現実なのよね。
ヘレナさんのところで魔道具を遊び道具にしているこの私が断言しましょう。この魔道具は幸福の壷レベルの悪徳商品です!
まあ逆に言えば、思い込み程度の効果はあるんだけどね。
だからこそ逆の逆……なんかもうわけわかんないな。
思い込みで抑えられるのなら、魔道具なしの思い込みにしちゃいましょうよと。
こんな魔道具を信頼して効果出してるって時点で思い込みが激しいのは確実なんだから、今まで道具の力を借りてやっていたことが実はカレンちゃんの実力なんだと正しく認識して「魔道具がなくても平気なんだ!」で円満ハッピー自己解決だと思うんだよね。めでたしめでたしお悩み終了。
ただしこれは上手くいったときの話なわけでさ。
悪いパターンだと、私のせいで思い込みの魔法が解けて魔道具がもう意味を為さず、常に抑える術のない暴走状態になる可能性、ってのもあると思ってる。
まあそこは当然、その対策と勝算があったからこそ魔道具のことをバラしたんだけどね。将来含めて考えてもこんなの着けてて百害あって一利なしだし。
というか。
「カレン? 大丈夫?」
さっきからカレンちゃんが固まっておられる。目の前で手をひらひらさせても反応無し。
まあ長年頼ってきた相棒が実は効果なかったなんて言われたらショックを受けるのは当然か?
毎日こんな……えーと、何ヶ所だこれ。
二十近くの装飾具をガチャガチャ着けたり外したりとか明らかに面倒そうな作業が全部無駄だったとか、私だったら絶対文句言うね。提案したのがお父様だったりしたら一週間は口聞かない罰を執行しちゃうね。
「結局どういうことなの? 効果がないのに抑えられるなんてそんなことあるの?」
「ん? えっとね」
カレンちゃんの復活が待ちきれないのかミュラーから疑問の声が。
本当はカレンちゃんにも聞いて欲しかったんだけど仕方ない。二度手間覚悟で説明しよう。
本来役割を果たさないはずだった魔道具を「必要だ」と思い込むに至ったその奇跡。悲しき偶然の重なりをっ!
「効果は低いんだけど、全く無いわけじゃないんだよね。それって保有する魔力が少ない人ほど相対的に吸われる魔力が多く感じるってことで、例えばそれが子供だったりしたら」
「そうか! カレンが魔道具を着け始めたのは幼い時だって言ってたな!」
「そういうこと」
なるほど! と大きく相槌を打ったカイルにミュラーが小声で「相対的ってなに?」と聞いてるのが耳に届いてしまった。もう少し噛み砕くか。
「つまりカレンは保有魔力の少ない子供の頃に、子供には効果のある魔道具を使って力を抑えていた。そして日常的に魔力を吸われ続けることになった。でも魔力って生きるのに必要な大切なものでしょ? だからカレンの身体は必要以上に魔力が減るのを防ぐ為、ある変化を起こした。本来身体中を均等に流れるはずの魔力を、できるだけ流さないように。吸われないように。魔力の大半を体の中心に隠すようになった」
……話してるうちに思ったんだけど、こんだけ自信満々で語っておいて的外れだったりしたらかなり恥ずかしいよね。しばらく立ち直れなくなりそう。
まあ要所は間違いないんだし多分合ってるとは思うんだけど……何度も確認したし筋は通ってると思うんだけど……探偵さんは毎度こんなプレッシャーの中で解決編してたのかと思うと尊敬しちゃうね! 自分の推理に絶対の自信を持つナルシストだね!
私は一般人なので石橋は何回でも叩いて渡ろう。
「初めは噛み合ってたと思うんだ。子供の魔力と《吸魔》の魔道具。魔道具を着けていれば暴発しずらくなるのは本当で、それ以降も魔道具があれば平気って無意識に制御できてたんだと思う。成長して魔力量が増えてからも、歪んだ魔力の流れのせいで手足に流れてる魔力の量は子供の頃とたいして変わらなかっただろうからね」
何度見ても、カレンちゃんの魔力の流れは異常だ。
普通の人は手や足にだって魔力が流れている。血液と同じように肉のある部分には魔力があるのが当然のはずなのに、カレンちゃんの手足に流れる魔力は骨よりも細い。
その反面、身体の中心に集まった魔力は今にも暴発しそうなほどに密度が濃いのだ。もはやカレンちゃんの身体そのものが爆弾にしか見えない。
「魔力視で見てるとわかるんだけど――ん、なにカイル?」
話してる最中、ちょいちょいと手招きをされた。
意図が読めずに聞いてみると。
「ソフィア。長い」
そう言ってミュラーとウォルフを見るよう促された。
そこには難しい顔をして、頭にはてなマークを浮かべる二人がいた。
……まだ難しすぎたか。
賢者や研究員と対等に話すソフィアの説明は難しかったようです。




