異世界のことを学ぼう
はーい! 私ソフィア! 今日で5歳になるきゃぴきゃぴのメルクリス家次女だよ!
え? 今日の私はテンション高いって?
いやーん! 分かっちゃうよね! でもでも、それって仕方ないことだと思うの! え? なぜかって? うふふ、それはね……。
今日から私に家庭教師がつくからでーす! わーぱちぱち!
無理やりテンションを上げてみたけど、実のところ私は悩んでいた。
この世界には魔法がある。
それを知ったときの感動たるや、背後から人に刺されるよりも衝撃的だった。
魔法。なんと心躍るワードだろうか。
手のひらから炎を出したり、ほうきに乗って空を自在に飛んだりしちゃう謎パワーがこの世界には実在する。
それはつまり、前世では平凡極まりないただの一女子高生だった私が手のひらから炎を出したり、ほうきに乗って空を自在に飛んだりしちゃう可能性もあるということだ。
つまり魔法少女だ。高校生にもなってアレだけど。
だがこの世界でそれはふつー。
魔力の多寡はあるが、人は誰もが魔力を持ち、魔法の力が人の生活を支えている。
つまり女の子はすべて魔法少女。男の子はみーんな魔法少年。
夢の国である。
別に魔法少女が大好き! ってわけではないけど、それでも気分はアガる。
私の悩みの原因もそこにあった。
魔法。
夢が広がる謎パワー。
いや、謎だからこそ夢が広がるといえよう。
だが魔法はこの世界では当たり前にあるもので、それは謎ではないのだ。
魔法学という学問があり、摂理に基づいて現象を引き起こしているだけなのだ。
だから手のひらから炎は出せても、ほうきに乗って空を自在には飛べない。
飛べないのだ。
夢も希望もなかった。
手のひらから炎が出せなくとも、空を自在に飛べるほうが万倍良かった。
手のひらから火が出たらなんだと言うのか。それは焼き芋を作るのにマッチ棒がいらない程度の話ではないのか。
自慢げに火球を作ったお父様を褒めちぎったのは魔法という神秘を学ぶためのおべっかであって、「好き好きお父様さすがねやっぱり私のお父様は世界で一番格好いいわ!」と言って欲しいと顔に書いてあったお父様の願望を叶えることで、機嫌良く何でも教えてくれるようになればいいな、と思っただけだ。
お父様の望んだパパ大好きっ子なソフィアなど存在しない。
だから魔法で空は飛べないと言下に切り捨てたお父様を絶望した表情で見てしまったのも必然なのだ。避け得ない事故だったのだ。
ちょっと反省はしたが、もったいぶった上、上げてから落とすという悪魔の所業を成したお父様の自業自得と言えよう。
一年前の話である。
今日紹介される家庭教師の先生は、一般教養と魔法を教えてくれるらしい。
この人が話すあれこれに適当に相槌をうって、あれこれ質問して、この世界での常識を学ぶついでに魔法の現実を知るのだ。
でなければ、魔法が当たり前にあるこの世界で空を飛べる私は魔法少女ではないナニカになってしまう。
新番組!「魔法少女☆彡ソフィアちゃん」!はっじまっるよ〜!(※始まりません)