魔力視探偵ソフィアちゃんの見解
今回の事件。
名前をつけるなら、んーと、そうだな。
「豪腕家の呪い!? 娘に宿る能力の真実!」とかだろうか。
カレンちゃんの声でみんなが集まって説明を聞く体勢に入ってしまったので、気分はなんとなく解決編の名探偵風味である。
よろしい、私の推理をお聞かせしよう。
「今回の件はカレンの長年の悩みでもあった。だからこそ私たちも協力して解決に臨んだんだけど……。私の推理が正しければ、その真実は奇跡的な偶然の上に成り立った、不幸な事故とも言えるものだったみたいなの」
「推理?」
「事故?」
「……ソフィア、また変なこと考えてるだろ。前置きとかいいからちゃっちゃと話せよ」
むぅ、良さげな合いの手が入ったのにカイルったら相変わらず空気の読めないヤツ。
相談者の心のケアは変なことじゃないのに。
でもカレンちゃんの真剣な眼差しを見てたら私もちょっと罪悪感がわいてきたからもう普通にしよ。
「じゃあ結論から言っちゃうね。えーと、まずカレンの制御不能な力って、ミュラーも使ってる《加護》? が無意識で勝手に発動しちゃってるんだと思うんだよね。そこまではいいよね?」
ぶっちゃけ私には身体強化魔法との違いがわからないんだけど、体力自慢の人達が「うおおおぉぉ!!」なんてザ・気合いみたいな呪文を言いながら使う身体強化魔法は《加護》と呼ばれ「神様が努力を認めて下さった証」であると同時に一人前の戦士の条件であるらしい。
ミュラーは当然使えるし、カイルも少しだけならできる。王子様もできる。でもネムちゃんやウォルフはできない。
ウォルフのコンプレックスの種でもある。
「まあ無意識って共通点はあるか?」
「そうね。私もカレンの状態は、不慣れな剣士が初めて得た《加護》を暴走させた時によく似ていると思ってたの。もちろん力の大きさや何年も続いていることとか、違いもあるけど」
カイルはピンときてないようだ。
たしかカイルって魔力視ができなかったはずだから、それが関係あるのかもしれない。
そうなるとミュラーと同じく魔力視のできるネムちゃんの意見も気になるけど……それは後で聞けばいいね。
正直ネムちゃんがいないと話がスムーズに進みすぎて違和感すらある。カイルの茶々が無ければ寂しさすら覚えてたかもしれない。
いたらいたで困るんだけどね。我ながらわがままなもんだ。
話を続けよう。
「《加護》って魔力使うでしょ? 普通は魔力って体内で均等になるように流れてるんだけど、カレンちゃんの場合は特殊でね。この魔力を吸い取る魔道具のせいか、体の中心に隠れるように集まってるんだよね」
弄んでいた意匠の少ない腕輪に視線が集まる。
さーて誰から突っ込みが入るかなと思っていると、またカイルが最初に口を開いた。
「……お前が人より魔力視に優れてるのは知ってる。でも人の持つ魔力なんて……そんなものまで分かるのか? 初めて聞いたぞ」
「そうだっけ?」
まあ言ってないからね。
……それにしても、みんなはカイルとのこの会話だけで「魔力が体の中心に集まってる」なんて突拍子もない話を信じてくれちゃうんだね。
カイルにはもう色々とバレてるし「ソフィアの言うことなら」で丸め込めちゃう素地も作ってきた自覚はあるけど、カレンちゃんたちにも素直に納得されちゃうのは想定外だな。
せっかくいい感じの言い訳も用意しといたのになー。
かといって下手に自分から穴埋めに行くと、カイル辺りに「嘘を誤魔化す為に饒舌なんじゃ」とか思われそうな気がする。ノー突っ込みは気になるけどやぶ蛇になるよりマシかな。
まあ《加護》使えないはずなのに地面に剣ぶっ刺したりとかしてたし今更かもね。
「で、んと。この魔道具なんだけどさ」
みんなも大分私に慣れてきたなぁと思いつつ、ちらりちらりとこれみよがしに魔道具をアピールする。
こちらにも望んだ反応はない。
……みんなちゃんと私の話聞いてくれてるよね? これ、新手のいじめとかじゃないよね?
気付いてないだけと信じてカレンちゃんにヒントをあげてみた。
「これ、魔力を吸い取るだけの魔道具ってことでいいんだよね?」
「ん……。力が入らなくなる、とは聞いてたけど」
その会話を聞いて、ミュラーがハッと顔を上げた。
「そうよ! 力を抑え込む魔道具じゃなかったの? 《加護》が使えなくなるほど魔力を吸い取るなんて、そんなの危険すぎる! 最悪命に関わる場合だって……!」
うんうん、その反応が欲しかったんだ。
どうしよう。探偵モノとか見てる時は「さっさと解決しちゃえばいいのに」と思ってたけど、探偵たちの気持ちが分かってしまった。
私この様式美とかいうの、割と好きかもしれない。
「そう。この魔道具こそが、謎を解く鍵だったんだよ」
興が乗ってきた。
これ楽しいな。
《読心》魔法で犯人の考えてることがぜーんぶ分かっちゃう系探偵。
迷宮入りはなさそうである。




