スピード解決
少し脱線したけど、ミュラーとカレンちゃんが模擬戦……というか、カレンちゃんが人に向けて剣を振るう練習を始めた。カイルはその見学をしている。
その間に私はカレンちゃんの許可を得て、普段力を抑え込んでいるという魔道具を見せてもらうことになった。
……とはいえ。
「やっぱり開けないと分からないか」
外側だけ見ても得られる情報は無く、かといって人の持ち物を万が一にも壊す訳にはいかない。
魔道具は基本的に一点物。
大量生産で同じものがいくらでも買える家電なんかとは訳が違うのだ。
あ、もちろん同じ部分もあるんだけどね。
……分解すると保証が受けられなくなるところ、とか。
てゆーかこれ系の商品見ると毎回思うんだけど、別に隠すほどの技術使ってなくない?
パクリ上等で幅広い発想が生まれるようにした方が絶対いいと思うんだけど……。それとも逆に、程度の低い魔道具しか流通しないように貴族側から圧力がかかってるとかあるのかな?
それなら貴族であるお母様やヘレナさんの作ってる魔道具が相対的に高い品質の物として重宝されるようになるもんね。自分からそーゆーことを考えはしないだろうけど、ヘレナさんなんか特に権力に弱そうだし。
ともあれ、魔道具業界の闇に想像を馳せてる間にこの魔道具の仕組みは大体分かった。
構造が単純だから《透視》の魔法でも十分に内部の魔法陣は見えたし、それが知ってる形だった上に実際に装着してその効果も体感したから間違いないだろう。……納得いかないけど。
うーん、正直魔法陣とか見たのは興味あっただけでどんな効果か見てわかるとは思ってなかったんだけど、さすがにこれ間違えたらお母様やヘレナさんに呆れられてしまう。
というかこれは、魔道具に分類していいものなのか。
何度見返しても間違いはないし、そもそも間違いないようもないとは思うんだけどぉ……。
なんだコレ?
「ソフィアは何をしてるんだ?」
その時、ネムちゃんを送り届けたウォルフが戻ってきたようだ。
「んー? 魔道具の方に、カレンの体質の原因があるかもってね」
自然と隣に座られたので、さりげなく距離を離す。
ミュラーはまだカレンちゃんのほうに集中していてウォルフには気付いてはいないようだ。
「ネムちゃんは?」
「……怪我は大したことないらしいけど、頭に血が上るのは良くないってことで落ち着くまではベッドに押し込めることになった」
「あはは」
なんともネムちゃんらしいことで。
「それで、あれは?」
ウォルフの視線の先にあるのは当然、カレンちゃんの致死性の大振りに危なげなく対処するミュラーの姿。
「全力を出してみることで力の制御のコツが掴めるんじゃないかって。カイルの発案でね」
そのカイルも、ミュラーに目が釘付けのようだ。
まあその気持ちはわかる。
見るからに素人なカレンちゃんと比べるのもなんだけど、ミュラーの動きはなんていうか、もう……実はカレンちゃんの剣と意思疎通できてるんじゃないかってくらい流動的で。
蝶のように舞い、ってこんな感じなのかなーなんて月並みな感想しか出てこない。
ウォルフもそんな剣姫様のお美しい舞いに心奪われているようだ。
……ま、好きなだけ見てるといいさ。
カイルの案は正直悪くない。
コツが掴めるかは別として、全力を出させるというのは私も賛成。
ただ……私の考えが正しければ、カレンちゃんの身体が持たないかも、とは思う。
そろそろ確かめてみるか。
「ふたりともー。ちょっと休憩して、こっちきてー」
ウォルフの方へ向かうミュラーを放置し、素直に寄ってきたカレンちゃんを更に呼び寄せる。
ああ、近づいて見れば一目瞭然だね。
「カレン、腕痛いでしょ」
「……うん。さっきまでは平気だったんだけど、だんだん痛くなってきた、かも」
とはいえ思っていたほど酷くない。
きっと無意識に《加護》とかいう剣術の強い人が使う、身体強化魔法みたいなやつを使ってたんだろう。
じゃないとあんな破壊力の剣、一回振っただけで腕死んじゃうもんね。
そして魔力視でカレンちゃんの体内の魔力を見れば予想通り。
最初に見た時の煮立ったマグマみたいな魔力が大分落ち着いていた。
これはもう確定でいいかなぁ。
「じゃあ痛くなくなるおまじないついでに、分かったことについて話すね。運が良ければすぐに解決できるかも」
「えっ!?」
私の言葉に驚くカレンちゃん。
長年の悩みが、って考えるとその反応は普通かもなんだけど、もしカレンちゃんの症状が私の想像通りなら、この後に待っているのは今の比じゃない「えっ!?」になるんだろうなー。
悩みが解決できるならいいことなんだけど、私の勘違いで済んだ方が気楽じゃないかと思う自分もいる。
カレンちゃん、解決してもショック受けないかな。間違いなく受けるよね。
でもいつかは必ず誰かから伝わるんだ。腹をくくろう。
さぁ、このお昼休みに全部済ますよ!
お昼に激しい運動して汗ひとつかかないミュラーさん化け物ェ。




