カイルvsソフィア
カイルが生意気なので口でボコす。
でもなんか「証拠がある」とか言ってニヤニヤしてるのがウザイから、全部吐かせてから鼻で笑ってやろう。
カイルの頭で私に勝てるなんて思い上がるんじゃないよ!
……そう、思ってたんだけどね。
「ソフィア、ミュラーに勝ってないんだろ? でも、認められるような何かはした。違うなら違うって言えよ? それ以外の言葉は認めたってことにするから」
「だぁから言い訳とかいいから。『違う』ならはっきり『違う』って言えばいいだけだ。簡単なことだろ? もっとも、正直者で意地っ張りなソフィアには難しいことかもしれないけどな?」
「つまりソフィアは、ミュラーの前で、剣術を見せたことがある。それはミュラーが認めるだけの腕前だった。んで今は、ソフィアが口止めしてるからミュラーはそれを言いふらさない。こんなところか? ほら、俺の言ってる事は間違ってるか? ん? 違わないよなぁ? ……やっべ、これ超楽しい」
うっぜえぇぇぇええ!!
私が言い返せないのをいいことにやりたい放題か! それが男のやることか! か弱い女の子をいたぶるのがそんなに楽しいか!!
くっそくっそ、手を出さないなんて約束するんじゃなかった!
まさかカイルがこんなネチネチ責めてくるヤツだとは思わなかった!
その! 嬉しそうな! 顔を!
今すぐ黙らせてやりたいっ!!
「ね、ねぇカイルくん……。そろそろ、ね? ほら、ソフィアが……ね? ね?」
「ん? まぁそうだなー」
カレンちゃんに窘められつつも、未だニヤケながら見下してくるカイルに心底腹が立つ!
コイツ、もう完全に優位に立った気でいやがる。いや事実そうなんだけど!
なんとか反撃の手はないかと模索していると、カイルは大きくため息をついた。
「本当は負けを認める言葉でも欲しかったところだけど……。ま、俺はソフィアと違って優しいからな。この辺で許してやるよ」
……腸が煮えくり返るってこんな気持ちなのかな。
カイル如きに! 情けをかけられるとか! なんたる屈辱!
まさかまともな反撃のひとつもできずに完封負けだなんて……。うぐぅ、完全に罠に嵌められたなぁ……。
「ま、まぁまぁソフィア。別にカイルに知られたところで大して……ひっ!?」
……ミュラーさぁん? むしろ私がこんな敗北感を味わうことになったのは、あなたのせいなんですけどねぇ?
カイルの質問に対して齟齬のないように肯定しながらもなんとか意識の誘導しようとしてるのに、その度に何度「でもミュラーが」って言われたことかっ!!
ミュラーがちゃんとポーカーフェイスさえできてれば、勝利までとは行かずとも、せめて五分には持っていけたはずなのに!
「……黙っててっていうのはね、教えないでってことなんだよ? なのになんでミュラーは、カイルの言葉に頷いたりしちゃうの? それって言ってるも同然なんだよ?」
「ごめんなさい……」
あーもー、ミュラーをいじめたいわけじゃないのに! むしろ泣きたいのはこっちだっての!
こんな気分の時にはカイルをへこませて憂さ晴らしでもしたいけど、それもできないし!
「あー、やべぇ。ソフィアが俺に突っかかってくる気持ちが今分かったわ。お前やり込めるのすげー気持ちいい」
うるせーだまれこの変態がー!
あああぁもう……、この激情、どうしてくれよう……!
なんにせよ、ミュラーがいたんじゃ勝てっこない。
今は、今だけは束の間の勝利に酔っているがいいさ。
でもやっぱり悔しいので、せめてもの抵抗にといつか必ず復讐するという強い意志を込めて「次はこうはいかないからね!?」と睨み上げ、出来るだけ低い声で威圧しといた。
「……覚えてろよ」
「その悔しそうな顔、最高だわ」
ぐうぅぅぅっ!! むかつくうううぅぅぅぅぅ!!!
あまりの屈辱にぶるぶると震えていると、下がった視線が偶然にその光景を捉えた。
「け、喧嘩やめて……ねぇ……、やめようよぉ……」
そこには今にも泣きそうになりながらも、縋り着いたカイルの服を握力だけでボロボロにしているカレンちゃんの姿が。
そういえばカレンちゃんの為に集まったんだってこと忘れてたね。
私の様子が変わったのを察したのか、カイルも視線を追って「うおっ」と声を上げて驚いていた。
そして。
「……えと、そうだな! 喧嘩はよくないよな!」
「そう、そうだね。ごめんねカレン。もう喧嘩しないから」
「……え? 本当?」
コクコクと頷く。そのまま二人でカレンちゃんを宥める流れになった。
……泣く子には勝てないってのもあるけど。
豪腕状態のカレンちゃんが暴走したらヤバそうだと直感したってのがなにより大きい。
こーゆーとこで直ぐに意思統一できちゃうのが、私ら幼なじみって感じだよねぇ……。
カイルは新しい性癖を得た。




