剣姫の矜恃
カイルの提案により、ミュラーvsカレンちゃんの戦いが始まりそう。
でもカレンちゃんは模擬戦に乗り気じゃない。
自身の制御不能な力で人を傷付けることを恐れるカレンちゃんに、ミュラーは毅然と言い放った。
「カレンさん、あなたの剣は当たりません」
その様はまさに威風堂々。ミュラーが格好良く見える。
たしかに剣さえ持てばキリッとした雰囲気もあったけど、普段の印象が強いせいか意外な感じがする。
いつもはウォルフの言動に一喜一憂するただの乙女だもんね。
「いくら相手が【豪腕】の血筋とはいえ、私にも二つ名を戴く者としての矜持があるの。もし修練もなく私に剣を当てるような才を見せられたのなら、私は喜んであなたに【剣姫】の称号を差し出すわ」
ああ、納得した。
今のミュラーはミュラーとしてではなく【剣姫】としてカレンちゃんに相対してるんだ。
ぶっちゃけ同じ女の子なのにうっかり惚れそうになるくらいには格好良い。
ウォルフはなんでこの場にいないんだろうね。いやいなくて良かったのか? 今のミュラーの方がウォルフより圧倒的にカッコイイし。
それでもこれを見逃すのは、ちょっと……。
消去法で他に選択肢がなかったとはいえ、ウォルフを行かせたのは失敗だったかな。せめてもの詫びに、今度はもう少し真面目に相談乗ってあげよ。
「そう、ですよね。ごめんなさい。失礼なことを言いました」
ミュラーの啖呵を聞いたカレンちゃんはなんだか感銘を受けたようだ。
というかこんな時に思うことでもないんだろうけど、失礼なことって、カレンちゃん普段から割と言ってるような……んっんー! 今はそんなことどうでもいいね! 謝れるのはいいこと! カレンちゃんはいい子! 私、カレンちゃん大好き!
余計な考えはシャットアウトしよ。
ミュラーに謝っていたカレンちゃんは咳払いする私に気付くと、何かを思い出したように「そういえば」とこちらに水を向けてきた。
「ソフィアはミュラーさんに剣を当てたこと、あるんじゃない?」
「え? ないよ。なんでそう思ったの?」
唐突になんだい。
剣術の授業でもミュラーとの模擬戦は最初の一回以来ずっと回避してるからそもそもそんな機会はないし、これからもそんな機会をつくるつもりはない。
最近ようやくミュラーの戦いたそうな視線も落ち着いてきたところなんだ。変に煽らないで欲しい。
「ソフィア、前にミュラーさんから『ソフィア様』って呼ばれてたから。そうなのかなって」
あー、また懐かしい話を。
確かにそんなこともあったけど、でもミュラーに剣を当てたことがないのは事実だ。
その呼ばれ方の原因である【剣聖】とか呼ばれてるミュラーのお爺ちゃんになら当てたことあるんだけどね。
いやマジ、あのお爺ちゃんと戦った時は身体強化フル稼働してんのに目が追いつかないわ身体は吹き飛ぶわでそりゃもう貴重な体験をさせてもらいましたとも。禁じ手を何個使わされたことか。
あの戦いを思い出すと思わずげんなりしちゃいそうになるけど、とりあえず今は、ミュラーより格上の相手にハンデ付きとはいえ勝ったという事実さえバレなきゃ何の問題もない。
たかが呼び方ひとつ、なんとでも誤魔化せるだろう。
「え? ソフィア、ミュラーに勝ったのか!?」
と思ってたらカイルがめっちゃ食いついてきた。
……なんでソフィア様って呼ばれることがミュラーに勝ったことになるんだろうね。
それにこの展開、前にも似たような事があった気がする。
ミュラーってば本当に剣の腕前でしか人の評価を変えないとみんなに思われてんの? ミュラーの友達に共通する認識なのこれ?
私、ちょっとミュラーのこと心配になってきちゃったよ。
剣姫様に人の印象を聞くと剣術の腕前を批評されるらしい。




