カイルの作戦
我々の目的はカレンちゃんの悩みを解決することである。
その入り口までが、まあ……遠かった。
私のせいとも言えるんだけどね。てへぺろ。
元から女子にしては筋力がある上に身体強化までして臨んだ私やミュラーと違い、標準的な女子であるネムちゃんに剣を地面に突き立てるなんて芸当ができるわけはなかった。
簡単そうに見えたかもしれないけど、そもそも生身じゃどう足掻いたところで不可能だと思うんだよねこれ。
私たちがやってるのを見て同じように、意気揚々とチャレンジしたネムちゃんは、しかし握力が足りずに剣は呆気なく手から離れ、勢い余って地面に顔から突っ込むという結果に終わった。いっそ芸術的ですらあった。
その後女の子として人に見られちゃいけない感じになった顔面にも頓着せず「なんでぇ!!」と喚き散らす駄々っ子と化したネムちゃんを治療した上で「今度教えてあげるから」となんとか宥めすかし、ウォルフをつけて医務室に送り出したのがつい先程の話。
なんだかどっと疲れた。
「大丈夫かな……」
「……まあ、ソフィアのアレもあるし、大丈夫だろ」
カレンちゃんは優しいなぁ……というよりも、それだけ心配するほどネムちゃんの勢いがすごかったんだけど。
ちなみにカイルの言うアレとは、痛いの痛いの飛んで行けーのことである。
「怪我は大したこと無かったから大丈夫だよ。それより、カレンの話だけど」
だいぶ脇道にそれた話を本筋に戻す。
「その制御不能の力を制御できるようにする。ってことでいいのかな?」
「うん」
ウォルフがいなくなったからか、カレンからは先程までの緊張が取れていた。
へー、ふぅん。カイルは本当に仲良くなれたみたいだねぇ。にやにや。
「つっても実際、どうすればいいのか見当もつかないんだけどな。今までは片手だけ魔道具外して色々掴んだり投げたりしてた」
「それで改善したのかしら」
「いいや、ダメだ」
ミュラーの問いに厳しい答えを返すカイル。
「ごめんなさい……。カイルくんが手伝ってくれたのに」
「カレンが悪いわけじゃないさ。きっと俺の考えたやり方が良くなかったんだ」
……さっきから思ってたんだけど、なんかカイルってカレンちゃん相手だと優しくない?
いやわかるけどね。
カレンちゃんってなんか、私が守ってあげなくちゃ! ってなるオーラ出してるよね。
「でも私たちを呼んだということは、何か考えがあるんでしょう?」
「そうだね。まずはそれを先に聞かせて欲しいかな」
私としてはカレンちゃんの問題はもう判明してるし、あとはどう解消するのがいいかって感じなんだけど、それを口にするのはまだ早いだろう。
いつでも解決できるなら急ぐ必要も無いし、それにあの魔道具の機能にもちょっと興味あるんだよね。
カイルは私たちの疑問に頷いて答えると、ミュラーとカレンちゃんを指差した。
「ああ。今までは抑える練習してたけど、逆に全力出してみるのはどうかと思ってさ。二人で模擬戦とかどうだ? ミュラーなら重いだけの攻撃なんて、万が一にも当たらないだろ?」
「ええ、私は問題ないけれど……」
ちらりとミュラーが視線を向けた先には、怯えた様子のカレンちゃんがいる。
その顔は明らかに、今の提案が受け入れ難いものであると示していた。
「……ミュラーさんがとてもお強いのは、知っています。でも、もしも当たったら……ほ、本当に、危険で!」
この様子は過去に誰かを怪我させた経験があるとみたね。
それがなくとも、カレンちゃんの懸念は当然の心配でもある。
ミュラーだってカレンちゃんのあのパフォーマンスは見た……というより、あの握り潰された剣の持ち手の方だよねぇ……。あれにはビビった。
私の防護魔法でも多分カレンちゃんの相手はできるけど、怪我しないとわかってはいても、あの威力が襲いかかってくるとなると……やっぱり怖い。
こーゆーのは戦うのが好きそうな人に任せるに限る。
私、考える人。ミュラー、戦う人。
適材適所ってのはやっぱりこうでなくちゃね。
「カレンさん。あなた、剣術の訓練は何年ほど?」
「……学院の授業だけです」
だって見てよ、ミュラーのあの嬉しそうな顔。
「ならば尚更です。カレンさん、あなたの剣は当たりません」
あの子、もうカレンちゃんと戦うことしか考えてないよ。
カイルも剣姫の戦う姿が見れそうでご満悦。
剣姫様のファンは多いらしい。




