ミュラーの方が大概おかしいからね?
カレンちゃんに見事なパフォーマンスを見せてもらったので真似してみることにしました。
イマイチな結果に終わった私の後はお待ちかね、本命であるミュラーの番でーっす。
ん? 何の本命かって?
ウォルフがカレンちゃんを傷付けないようにする為の仕込みだよ!
「……で、力を真っ直ぐに。ベッドの下に隠れたネズミを驚かすつもりで、一気にね」
「分かったわ」
さすがはお嬢様と言うべきか、【剣姫】として剣を握り慣れてはいても剣をわざと痛めるような使い方は初めてらしい。それも地面に刺すなんて考えたことも無いんだとか。
まぁ普通は刺さらないしね? それも当然だとは思うよ。
どーしても地面に剣を突き立てるイメージができないと言うので「ならベッドに突き立てるつもりではどうか」と提案してみることにしたのだ。
なんでも最近ネズミに困らされているそうで、イメージの補助にと軽い気持ちで地面に描いてあげたデフォルメネズミを、まるで「仇敵を見つけた!」と言わんばかりの殺意マシマシの目で見つめていた。どう見ても殺る気だった。
ミュラーの家のネズミさん逃げてぇ。
やっぱりこの子の二つ名【剣鬼】でいいんじゃないかな。【剣姫】と呼ぶには殺意強過ぎると思うんだよね。
「じゃ、どーぞ」
とりあえず心の準備はできたようでなにより。
離れる間際、気付かれないよう防護の魔法を付与してあげた。
剣が折れた時に勢い余って怪我したら大変だからね。というか実際、私も魔法で保護してなかったら手を怪我してただろうし。
この遊びは危なすぎるから流行らないように気にしておくことにしよう。
……そもそも出来る人なんて、数えるくらいしかいないだろうけど。
「ふぅ……。………………よし」
精神統一を済ませたミュラーは一度、楽な姿勢を取った。そして次の瞬間、一息に――!
「《二度と来るな》ッ!!」
パキィィインッ!
子気味良い音が周囲に響き渡る。
地面に刺さった剣身と手に残った剣を見るに、刺さった深さは……半分ってとこかな? 私より上手いや、さすがは剣姫様。
「……意外とできるものね」
「おお〜。ミュラーもすごいのだぁ」
自分の成果に驚くミュラーに、他の人の時と同じように素直に賞賛を送るネムちゃん。目を丸くして驚くカレンちゃんとカイル。
そして――。
「………………」
ミュラーが突き立てた剣身を見つめ続けるウォルフ。
その顔には、複雑な感情が浮かんでいたけど……。私には、絶望の感情が色濃いように感じた。
……ん、悪いね。
ウォルフには申し訳ないけど、私ならともかく、カレンちゃんを化け物として見るのは許せなかったんだ。
でもウォルフが特別な感情を抱くミュラーが、カレンちゃんと近しいことを成し遂げたこの結果を見れば。きっとカレンちゃんに向けられていたあの目は二度と出来なくなる。そう思っていた。
……その代わり、ミュラーの恋愛がちょーっとばかし難航するかもしれないけど、そこはほら、ね!
今と大して変わらないというか、そう! どうせ乗り越えるなら障害は大きい方が、恋はより燃え上がるとか言うし! ちゃんとフォローもするから! ね!
「自分の新たな可能性を見つけた!」みたいな顔してるミュラーと「俺にはとても無理だ……」みたいな絶望顔のウォルフ見ちゃうと、この状況を作りだした罪悪感がビシバシと襲ってくるけど、まあうん。
「カレンが一番上手だったね!」
とりあえずそういうことにしとこう。
――そう締めくくって、お悩み解決のフェーズに移ろうと思ったんだけど。
「待つのだ!」
こーゆーことを好きそうな子が、黙って見過ごす訳がなかった。
「主役は遅れてやってくるのだ! 今こそ、我が力を見せてやろう!!」
いつの間に手にしていたのか新たな廃棄剣を掲げて、地から生えた二つの剣身の中心に立つネムちゃん。
その顔は、自信に満ち溢れていた。
その数秒後、地面さんに拒否られ「なんでぇ!!」と涙目になる魔王様のお姿がありましたとさ。




