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フェレットを愛でよう


 かわいい。


 なにこれかわいい。


 大きいフェレットもかわいかった。でっかくてぬぼーっとしてて、大きな体に抱きついて思う存分わしわししたかった。


 だけど、フェレットは小さいものなんだ。


 生きて、動いて、手の中に収まるフェレットがこんなに愛らしいなんて知らなかった。


 これは知り合いに会うたび同じことを何度でも自慢しますわ。


 うざがってごめん。智美ちゃん、あなたは正しかった。


 フェレットさいこぉう!



「かわいい~かわいい~。あ~かわいいよおお~~~」


 なんでか知らないけどちっちゃくなってた鎌鼬ーズ。


 これは連日のお説教を乗り越えた私への神様からの贈り物かな!


 いまだかつて、こんなに幸せな両手に花があっただろうか。


 右手にはフェレット。左手にもフェレット。

 しかも、しかもだよ!? 顔を近づけると首を伸ばして、頭をこすり付けてくるのだ! かわゆすぎるぅ!


 キュウゥ、キュウゥと鳴く声がかわいい。さらさらの手触りがかわいい。肌を擽るおヒゲがかわいい。つぶらな瞳がかわいい。ちっちゃなお耳がかわいい。暖かな体温がかわいい。こしょこしょ動く手足がかわいい。


 あぁ、ダメこれ。私死んじゃう。かわいすぎて死んじゃう~。


「あぁ、あああ。あぁぁ……」


 ほら見てよ。あまりのかわいさにお母様まで壊れ気味だよ。


 まぁそれもしょうがないよね。

 お母様は元々かわいいものが好きだし。私を膝の上に置いて撫でてるだけでニッコニコになっちゃうくらいなのに動物の愛らしさに敵うわけなんてなかったんだ。


「ア、アイリス?」


 お父様はお母様の様子に戸惑っているみたいだ。


 ふふん、かわいいは正義なのだよ。それをお父様にも間接的に知らしめてあげよう。


 お母様を魅了することによってね!


「ほ~らお母様。こっちで一緒に楽しみましょう?」


 寝転がったまま手の中にいるフェレットを見せびらかす。


 こんなはしたない格好、普段のお母様だったら間違いなく叱られる。


 だけど今のお母様の目はフェレットたちに釘付けだ。私の姿が見えているかすら怪しい。


 ふらふらと歩み寄ってくるお母様に両手を差し出す。

 気分は清純な人妻を堕落に誘うサキュバスだ。うふふん。


 両手の上にいるフェレットたちが近づいてくるお母様を見つめる。

 二対のつぶらな瞳が、見つめてくるのだ。

 この誘惑に耐えられる女性がいるだろうか? いや、いない。魂に刻まれた庇護欲が目の前の小動物を全力で愛でよと燃え立つのみだ。


「ほらお母様、手を伸ばして。もふもふですよ?」

「も、もふもふ……」

「アイリス? おい! どうしたんだ!? ソフィア! どういうことか説明しろ!」


 お父様うっさい。


 邪魔が入らないうちにお母様を陥落させようと伸ばされた手にフェレットを突き出した。


 ちょん、と触れた指先が止まる。

 自分に当たった指が危険なものかを確かめるように、最初は鼻先で、次第に体全体を使って指にじゃれつくフェレット。

 お母様の頬の赤みが一気に増した。


 堕ちた――。


「どうですかお母様。かわいいでしょう?」

「ええ。ええ、本当に! なんて可愛らしいのでしょう!」


 興奮した顔と声音とは裏腹に、手を伸ばした不自然な姿勢のままお母様が叫ぶ。


 たぶん力いっぱい抱きしめたいんだけど、小さな生き物を潰しちゃうのを恐れて動けないんだと思う。だって体ぷるぷるしてるし。

 うんうん、その気持ちはよくわかるよ。


「アイリス!? ソフィア! それが例の魔物なのか!? 危険はないんだな! 本当に!?」

「こんな微笑ましい光景を目の当たりにして何を言っているんですか。かわいい小動物以外の何に見えます?」


 フェレットも慣れてきたのか、一匹がお母様の腕を駆け上った。


 それを見たもう一匹が後を追い、そのまま首筋に潜り込んだ感触にお母様がぴくんぴくん反応する。

 手をわたわたさせながら『あっ、やぁっ』と零す喘ぎが大変艶かしい。


「アイリス! 正気に戻れ! それは危険な魔物なんだろ!」

「やっ、あ、アナタ……っ、そんな、こんなにかわいい……んっ」


 焦れたお父様が無理やり引き剥がそうとお母様に近づき、おもむろに首筋に手を突っ込んだ。


 それを嫌ったフェレットがお母様の体中を逃げ回る。当然、服の中を。

 そしてそれを追いかけちゃうお父様の手。

 喘ぎ声を上げるお母様。


 なんか、ヤバい。簡潔に言うとエロい。


 傍目にはお父様がお母様をまさぐって喘ぎ声を上げさせているようにしか見えないのがまた。


 ……ここにお姉さま呼んできたら、楽しそうだな。


 いけない、自重しないと。


お姉様「――ッ! 私の知らないところで楽しいことが起こってる気配がする!」

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