豪腕の姫
お昼の休憩時間にカレンちゃんの相談を受けると約束をしていた。
だから昼食を手早く済ませ、みんなで外に出たのはいい、んだけど……。
「よし、じゃあ始めるか」
「え、いいの?」
カイルの言葉にはさすがに突っ込まざるを得なかった。
だっておかしいでしょ?
ここにいるメンバーは相談者のカレンに、協力者のカイル。それとカイルから協力要請を受けた私。
それに加えてウォルフ、ミュラー、ネムちゃんまでいるという、いわば仲良しフルメンバーだ。
……学食にいた時と同じメンバーとも言う。
どこまで着いてくるんだろうとは思っていたが、まさか最後まで着いてくるとは。
「いいんだよ、カレンがいいって言うんだから。な?」
「う、うん。みんな、ありがとう。よろしく、ね?」
カレンが構わないならいいんだけど。
ただ私にバラすのはあれだけ渋ってたのに、みんなにはあっさりと頼むのが少し釈然としないというか……。いや、あれはカレンの意思じゃなくてカイルが粘ったんだった。
まあいい。今はカレンちゃんのことに集中しよう。
カイルとか生け贄とか夫婦とか、そんなのはもうこりごりだ。
「俺で力になれるかは分からないけどな」
「この私に任せなさいな!」
「我等の助力あらば、問題などたちどころに解決するであろう! ふははは!」
「カレンが困ってるんだもん。助けるのは当然だよ」
てかネムちゃんはともかく、ミュラーもテンション高いね? どうしたのかな?
あえて気にしないようにしてたけど、カイルが持ってる剣がいっぱい入った袋は、そういうことなのかなぁ……。
「先ずは見てもらうのが早いよな。カレンは準備な」
「うん」
返事をしたカレンちゃんは、腕や首元をまさぐって何かを取り外していく。
あれは……魔道具?
そのまま身体中をごそごそし始めたカレンちゃんを置いて、カイルは持って来た袋の中から一本の金属製の剣を取り出した。
「じゃ、見ててな。これ、鉄製の剣。見ての通り折れてる。廃棄予定のやつだけど、まぁ短い剣みたいなもんだよな」
先端部分が不格好に欠けた、見るからにバランスの悪い剣。カイルの言う通り剣先が折れた物だろう。
それを片手で握ると、ヒュヒュンと軽く振って手に馴染ませ、折れた剣先で地面を削って土を飛ばし、最後には地面に垂直に突き立て、数度、ガッガッと地を抉った。
……最初だけなら割と格好良かったのに、何がしたいんだろう。
というか土を飛ばすならまだしも、最後のはもう、剣として使い道が間違ってると思う。穴を掘りたければスコップを使え。
だが当のカイルは平然と言葉を続ける。
「……と、まあ見ての通り、何の変哲もない普通の剣だ。さてこれを【豪腕の姫】カレン・ヴァレリーが使うとどうなるか。……カレン」
「……うん」
真剣な表情で、カイルから剣を受け取るカレンちゃん。
その立ち姿に私は違和感を覚えた。
服装はさっきまでと同じなのに、何かが違う。なんだろう……。………………姿勢、か?
「あの……。できれば、その」
カイルと同じように片手で剣を構えたカレンちゃんは、そのまま剣を逆さに……折れた剣先を地面に向けて。
「……嫌いに、ならないで」
そのまま、地面に突き刺した。
「え?」
「うそ!?」
「おお〜」
地面に垂直に立てられていた剣身は余さず地中へ。
それだけじゃない。
カレンちゃんが握ったままの拳を上げれば、地面から顔を出すのは剣身と柄の境である鍔の部分だけ。そこに柄は存在しない。
柄は一体どこへ消えたのか……半ば確信とともに視線が集まった手のひらには、でこぼこの金属の板がある。その形はまるで、そう。例えるならば、粘土を握り込んだような。
「……なるほどね」
これが、カレンちゃんの抱える悩み。
これが【豪腕の姫】か。
なおカイルの初見時の感想。
「は?え!?ええ!!?すごいなカレン!お前凄いやつだったんだな!!」
大概ひどい。




