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担当は生け贄です


 適材適所、という言葉がある。


 苦手な事は得意な人に任せようとか、そんな意味の言葉だ。


 それは例えば、虫嫌いな女の子の部屋に入り込んだ虫は、虫を平気で掴める男の子が追い出すべきだとか。


 それは例えば、悪いことをして叱られる時に、頭を殴られるのは頑丈な男の子の役割で、優しい姉に慰めてもらうのはか弱い女の子の役割だとか。


 それは正当性を担保する魔法の言葉。


 とても便利な言葉だが、扱い方を間違えれば諸刃の剣ともなる。


 そうとも、私は油断をしていたのだ。

 今まで何度もカイルの不満を封じ込めてきたその魔法の言葉が、まさか私に牙を剥く時が来るだなんて!!



「昼までにカレンに話通しておくから」


 休み時間に入ってすぐ、カイルにそう告げられた時の衝撃たるや。


 カレンちゃんと勉強談義でもして近づきがたい空気を作ろうかと思っていた私の計画は、始まる前から終わっていた。


 そもそもカレンちゃんの相談を受けていたのはカイルなわけで、私が無理矢理聞き出した事とはいえ個人の事情を勝手に話してしまったことに変わりはない。


 謝罪の意を示す意味でもカイルが話を通すのは正しい。


 わかってる。わかってはいるんだ。


 ただそうなると必然、私は避難先を失うことになるし、なによりカイルを生け贄にしようとしてた私の予定が狂う。


 ……いや、やめよう。まだどうにかなるだなんて現実逃避は。


 これはただの適材適所。

 今回は私が生け贄の役回りだったと、ただそれだけの話さ。


「ソフィアってカイル相手だとなーんか自然なんだよねー♪ 作ってないっていうかー」


「ねー♪ 心が通じあってるよねー」


「信頼」


「いつ夫婦になっても不思議ではないわ」


 あっという間に囲まれた。


 あらかじめスタンバってたのか、カイルが離れて直ぐに見事な包囲網を形成した彼女たちからは「絶対に逃がさない」という気迫を感じる。


 いやさすがにそんな肉食獣みたいなことは考えてない。はず。ただの気の所為だとは思う……思いたいんだけどね?

 ただ本能が既に屈服しているというか。「彼女たちからは逃れられない」と諦めちゃってると申しますか。


「ソフィアー。カレンが行っちゃったから相手して?」


 しかもこの子らだけでも大変なのに、ネムちゃんまでとか、マジかー。

 真面目な話するからカレンちゃんからネムちゃんを引き離しとけってことですよねこれ? わかるよ。わかるけどさ。


 もう、もうね。無事に乗り切れる気がしない。


「さぁ、白状しなさい!」


「カイルくんと二人きりになって、何を話してたのか」


「期待」


「そもそも貴方達、本当に付き合ってはいませんの?」


「ん? んん? ……ソフィア、全て話して楽になるのだ!」


 ほら、ほーらこうなった。


 ひーん。

 私にどうしろってのよ〜。





 私、がんばった。すっごくがんばった。自分で自分を褒めてあげたい。


 気力の尽きかけた私とは裏腹に、聞きたいことを聞き出せた彼女たちはホクホク顔だ。


「つまりはこうね? カイルに連れ出されたソフィアは」


「手を繋いで」


「人気のない場所に連れて行かれて」


「襲われそうになって」


「返り討ちにしたのだ!!」


「全然違うよ?? ねぇ私の話ちゃんと聞いてた?」


 端折(はしょ)り方に悪意がありすぎる……。


「あはは、冗談だってー。ほーら、ほっぺた触ってあげるから怒らないでー」


「怒ってはないけど」


 もにもにと弄ばれるほっぺたちゃん。

 赤くなってるのを隠してもらえると喜ぶべきか、熱くなってるがバレそうだと嘆くべきか、悩むところだ。


「でも良かったね。カイルくんがカレンのこと好きになったとかじゃなくて」


「だからぁ……そんなんじゃないって」


 二人きりで話した内容やカイルの聞き込みを始めた理由に至るまで根掘り葉掘り聞き出されたけど、なんとかカレンのとこだけは誤魔化すことに成功した。

 秘密は守り切ったよ……カレン。


「無自覚?」


「他の子を見てると、なんだかモヤモヤする。私だけを気にして欲しい。それはね、ソフィア。嫉妬という感情なのよ」


「思ってない。私だけを気にして欲しいなんて思ったことない。ただカレンの迷惑になりそうだなって思っただけ!」


 どーーーしても私とカイルをそういう仲にしたいらしい。


 私も乙女だし、その気持ちはわかるけど。

 ……そのニヨニヨ笑うのだけはやめてぇ!


「うむ、ソフィアは友達思いであるからな! 見返りなどなくとも、ずっとカイルのことを気にかけるくらい大切に思っているのであろう!」


「「わーお」」


「……ぱちぱち」


「えぇ、えぇ、そうでしょうとも」


 ……ネムちゃんがこわい。

 この子はホント……本当に、もおぉぉぉ!!


「あ、ほっぺた熱くなった」


「あ、拗ねた」


「やりすぎちゃったかしら? ごめんね」


「ソフィアー、眠いの? いっしょに寝る?」


 もう私に残された術は、机に突っ伏してただ時が過ぎ去るのを待つのみだった。


魔王の攻撃!《無邪気な感想》!

ソフィアに痛恨の一撃!ソフィアは力尽きた!

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