ロリコンを救う
私のクラスにはロリコンがいる。
いや、別に私がロリというわけでは……中一はロリの範疇か? なら否定することでもないか。
とにかく。そのロリコンに私は目を付けられてしまったらしく、本人はバレてないつもりだろうエロい目で見られ続ける毎日なのだ。よよよ、かわいそうな私。
本当に、好意だけなら悪い気はしないと思うんだけど、こいつは他がね。視線とか態度とか、明らかにエロ目的って分かっちゃってキモさが先にくるのよね。
さらに悲しいことに、こいつがエロっちいことは女子の共通認識だったりする。
それでも普段はもっと控え目というか、たとえカイルとのひそひそ話に熱が入っていたとしても、女子が近くにいるこの状況で「いかがわしいことはしてないんだろうな」なんて発言をするほどのオープンエロではなかったと思うんだけど……。
「なんか悪化してない?」
今はもう、ただただ残念な感じになってた。必死すぎてひくわ。
「ソフィアがカイルに連れてかれたって聞いてから、ずっとこんなんだよ」
「嫉妬の権化」
ふーん。嫉妬ねぇ。
そう言えばリンゼちゃんが、嫉妬は喪神状態の原因になりうるとか言ってたな。
嫉妬に限らず負の感情の急激な高まりが〜とかって話だったけど、つまりは嫌な気持ちが膨れ上がると危ないって話だったはず。
……これ、フォローしといた方がいいのかなぁ。
あんまり気が進まないけどやるか。
「ねぇ、カイルなんかいいからさ。ゴドウィンもこっちで一緒に話さない?」
服の裾を軽く引いて、にっこり笑顔に上目遣い。カイル下げに名前呼びまで付けてやれば、面白いくらい簡単に釣れた。
「え? おっ、おう! へへっ、悪いなカイル。そういう事だから俺は女子の方混ざってくるわ!」
「……ああ、俺は気にせず行ってこい」
カイルの視線が痛いけどいいんだ。これは人命救助だから。
というか我ながら媚びてる自分はちょっとどうかと思うし、そんな胡乱気な目で見なくたっていいじゃん。私だってやりたくてやってる訳じゃないんだ。仕方なくなんだ。
「あーもーソフィアは優しいんだからなー」
「仕方ありませんわね」
「……魔性の女」
……だからこんな評価も、できれば遠慮したい。
違う、違うの。誰彼構わず媚を売ってるわけじゃないの。
ただね、みんなの心の平穏とか、クラスの不和とか、そーいったのに配慮してると自然と八方美人になるっていうかね、男を弄んでるように見えちゃうだけでね、だから好き好んで男子にいい顔振りまいている訳ではなくてね!
心の中で誰ともなく言い訳をしていると、ネムちゃんの楽しげな声が場に響いた。
「ソフィアは愛され上手なのだー」
その言葉を祝福するように、高らかな鐘が鳴る。授業の始まりを告げる、救いの鐘が。
「あ、ほら、授業はじまっちゃう。みんな席座ろ? ね? ね?」
「あはは、照れておりますなー」
「ちっ、しゃーないか……。またな、ソフィア」
「それでは、また次の休み時間に」
流石は特別クラスに選ばれる優等生たち。
チャイムを理由に解散を促せば、名残惜しそうにしながらも、それぞれが仲の良い友達の近くへと散って行く。
……なんとかこの場は助かった、かな?
しかしまだ油断はできない。
予告までもらったことだし、次の襲来に対する備えを授業中に整えておくとしよう。
ソフィアとカイルの悪口の応酬も、クラスの皆さんにはもはや慣れたもの。
微笑ましい日常の一部なのでございます。




