でっかい尾ひれ
私の頭の中では常に時計が動いている。
カチコチ、カチコチと一定のリズムを刻む、想像上にしか存在しない私だけの時計。
指定した時間になったら知らせる機能がイチオシだけど、メリーと離れてからの経過時間やフェルと離れてからの経過時間。お兄様と何時間何分何秒離れているかを自動で計測する機能も最近のお気に入りだ。
以前は時間停止の魔法を使う度にいちいち時間を合わせ直す手間があったものの、今ではその問題点も改善され、日に日に最適化されつつあるスーパー便利な脳内時計。
だが、そんな多機能な時計にも弱点はある。
「あ、ソフィアおかえりー。どうだった?」
――授業の開始時間はお知らせできても、クラスメイトの襲来はお知らせできないことである。
「ただいまー。どうだったって、なにが?」
失敗した。
カイルで遊んでスッキリしたからか、はたまたカレンちゃんの問題に頭の容量を割かれていたからかは定かではないが、この問題が残ってることをすっかり失念してた。
そう、「ソフィアってカイルが好きなんじゃ!?」とクラスメイトに誤解されてるかも問題である。
「んー? 旦那の浮気調査して、今までその言い訳聞かされてたんじゃないの?」
「はぇ?」
なんか変な声出た。
い、いや待て、落ち着け。これはあれだ。尾ひれだ。
もしかしたら変な尾ひれがついて話が大きくなってるかも〜とは予想してたじゃないか。これはそれだ。
ただちょっと、話のぶっ飛び具合が想像の範疇を軽く飛び越えてただけの話だ。
「旦那!? ソフィア、我に内緒でいつのまに!!」
「ごっふ」
そして無警戒の背中にネムちゃんのタックルを受けて、口から空気が漏れただけだ。常時発動型の防御魔法のおかげで痛みは無いが、衝撃はある。あと変な声を連発した恥ずかしさも。
「ねぇ旦那ぁ。ソフィアはちゃんと言いくるめられたのかい?」
「……お前ら、ホントそーゆー話好きなのな」
当然、私と同時に教室に戻ってきたカイルが見逃されはずもなく。別の子にとっ捕まって早速尋問を受けていた。
その間、教室に入って僅か十秒。憐れなるの贄の完成である。
その憎らしいほどに素晴らしい連携が剣術の時間にも発揮できていたならば、彼女たちはさぞ優秀な成績を収められるだろうに。私は残念でならない。そして後悔して止まない。
授業の準備なんて殊勝なことは考えず、時間ギリギリまで、もう少しカイルで時間を潰すべきだったと。
もしくは彼女たちの興味をより引けるような、無理矢理にでも話題を変えられる術を用意しておくべきだったと。
全ては後の祭りである。
「はいはーい、二名様ごあんなーい。あ、カイルくんはあっちのめんどくさいのどうにかしてね」
そうして連行された先には、私が苦手な男子もいた。
以前私を見て「エロかった」などと宣いやがった、頭の中がエロエロ系のヤツだ。粘つくような視線が相変わらずキモイ。
思わずカイルの陰に隠れた私を見て、ヤツは驚愕の顔を浮かべ、そして言った。
「やっぱカイル潰す」
「なんでだよ」
カイルの手刀によるツッコミを跳ね除けると、引きずり込んだカイルの肩に腕を回し「羨ましい代われなんでお前ばっかり」と小声で文句を言い始めた。カイルは鬱陶しそうにしている。
いや、まぁね。
正直好意自体は、悪い気しないけどね。
聞き耳王子が目を閉じて意識を集中しているようです。




