とんでもない男だよ
カレンちゃんが先生に「特別クラスをやめたい」と話しているのを偶然聞いてしまったカイル。事情を聞くも、どうにも煮え切らない態度で埒が明かない。
だけど少なくとも「やめたい」のではなく「やめようか悩んでいる」のだと知って、相談にのることを決意したのだという。
「周りに相談しろって言ってもアイツ聞かねーから。なら俺が聞くっつってんのに、悪いからーとか、迷惑がーとか、なんだかんだ理由つけて断るし。なら相談のってやる代わりに勉強教えてくれって言ったら、なんか、今みたいな感じになった」
アイツ、ね。
親しい友達が少ないカレンちゃんに男友達が増えたのは喜ばしいことだけど、カイルって結構押し強いところあるからなぁ。
「よくわかんねぇけどイケそうな気がする! 任せろ!」からの「すまん! やっぱ無理だった!」なんて無責任コンボが発動して問題を悪化させるだけの結果にならないかがちょっと心配。
とはいえ解決の手伝いじゃなく、話を聞くだけの相手にならカイルは向いてるとも思うけどね。根はいい奴だし。
それにカレンちゃんの事情は気にかかるけど一人で抱え込まずに済んだのはとても良い事だと思う。
カレンちゃん+悩みとか、一人で思い悩んで潰れちゃう未来が容易に想像できる組み合わせだ。
そんな時には誰かと話をするってだけでも大事なことだし、悩みを人に相談できるならそれだけ心が軽くなる。
たとえカイルだろうと話を聞くくらいなら問題なくできるだろう。
――というのは、どうやら私の過剰評価だったらしい。
「ちゃんと役に立ってるの?」
単なる事実の確認。
そんな軽い気持ちで投げた言葉に、カイルはバツが悪そうに答えた。
「いや、まぁ。実はあんまり」
はぁん? 利益だけ享受して対価を返してないだと? なんて男だ。
収まっていたムカムカが再度顔を覗かせる。
だが休み時間も残り少ない。
今ここでカイルを糾弾する時間はないので、短気は損気。怒りは美容の大敵だと自らに言い聞かせることで平常心を取り戻した。
とはいえお小言くらいは言いたい。言おう。我慢も体に良くないからね。
「成績は上がったんでしょ?」
「へへ」
いや喜ぶとこじゃないから。褒めてないから。なに自慢気にしてんだ。
「ならカレンにお礼しなきゃとか思わないの? 役に立ちなさいよ」
まったくとんでもないヤツだ。こやつ全然反省してない。
カイルはもっと誠実というか、バカだけど筋は通すヤツだと思ってたのに。
利益だけ搾取して用済みな相手をポイするような悪人なら、今後の付き合い方を考え直す必要があるかもしれない。
自分を見る目が軽蔑に変わりつつあるのを察したのか、カイルは慌てて手を振って言い訳を始めた。
「いや何もしてないわけじゃないんだよ。でも正直、俺の手には余るっていうか。お前かミュラーに協力してもらえないかと思ってたんだ。本当だって!」
えー、本当かなぁ……。と冗談はともかく。
カイルが役立たずで、なおかつ協力要請があるなら私の方に否やはない。ここまで聞いて放置する気も無いしね。
「カレンの為ならもちろん協力するけど。その前に、事情はちゃんと説明してもらうよ?」
「ああ、もちろんだ!」
当事者抜きでこんな話してるのも変な感じだけど、お友達であるカレンちゃんの為なら存分に力を振るおうじゃないか。
……っと、でも。
その前に、次の授業の準備をしなきゃだね。
その前の前に、クラスで夫婦のご帰還を待ち構えてる淑女達のお相手ですかね。




