言わぬなら、言いたくなるよう、させてやる
下手な嘘を暴かれてなお一向に口を割ろうとしないカイル。
慈悲深い私はその姿を見て、考えを改めることにした。
「そうだよね、やっぱり言いづらいよね」
嫌がることを無理に聞き出すなんて間違ってる。
誰だって秘密の一つや二つ、あるよね。
うん、いいよいいよ。言いたくないなら言わなくても。
「え?」
無理に聞き出そうとする姿勢を一転、私は全部わかってますよと言わんばかりの憂い顔を浮かべた。
そう、情報は出揃ってる。
隠したがるカイル。カレンちゃんの反応。ウォルフとミュラーから聞いた話。そして人気のない場所に連れて来られたという、この状況。
これらの情報をじっくりことこと乙女の無限大妄想パワーで調理すれば、ほら、とっても素敵な物語の出来上がり。
真実かどうかなんて些細な問題だ。
私はただ真実を知る当事者を前にして、現在の情報から推察される状況に想像と妄想で補完をして編み上げた面白おかしい物語を語るだけ。
カイルはそれを聞いて、間違いがあるならばこの場で訂正すれば良いし、もしも訂正されなかったのなら、それは私にとっての真実ということになる。
私にとっての真実ならそれを私がどうしようと私の勝手だよね。
人に話すのも自由だけど、もし真実と違っていた時に恥をかくのも私。
でも、今この妄想……違う。私にとっての真実を語ることによって、いざその段になった時に「カイルにこういう事でいいんだよね? って聞いたら否定されなかったんだけどなぁ」という一言が添えられるようになる。
それを聞いた人が、カイルの語る真実を聞いた上で、私の語る真実を支持するかもしれない。信じるかもしれない。
これは、ただそれだけの話だ。
「カレンちゃんのことが好きなんでしょう? 告白したけど断られて、でも諦めきれなくて、持ち前のしつこさで付け回してようやく一緒に勉強できる仲まで漕ぎ着けたんだよね? 美味しくぺろりと頂いちゃうまであと一息の所まで持ってきたんだよね?」
「おいやめろ」
やめるものかよ。
私は今とっても楽しいんだ。
「でもそれに私が気付いた。気付いてしまった。友人を救おうと動く私を邪魔者と判断したカイルは、先手を打って、私を先にどうにかすることにした。そう、そしてまんまと、この人気のない廊下に連れ出す事に成功した!!」
「お前普通に着いてきただろーが」
「剣術で先生も認める腕前を持つカイルがっ! 体力も腕力もある男の子が、か弱い女の子をっ! 無理矢理あーんなことやこーんなことをして黙らせる為にっ! こんなところに連れ出して!」
「ぶふっ、か弱い女の子……ははは」
おい笑うな。そこ笑うとこじゃなかったんだけど。
ムカついたから極小の土塊を生成してカイルのおでこに向かって射出した。
デコピン程度の威力を持つその魔法は標的に着弾する直前、危険を察知したカイルによって回避されてしまった。チッ、勘のいいヤツめ。
「なにすんだ!」
「か弱い乙女の健気な抵抗。で、なんとか悪漢の手を逃れた少女はこれから助けを求めに行こうと思うんだけど、どうする? もしカイルが『可憐で麗しく最高素敵なソフィア様に話を聞いて欲しい』って懇願するなら、聞いてあげなくもないよ?」
口で言い負かすのは相変わらず簡単だけど、その分物理が防がれるようになってきたな。ちょっと手の内見せすぎたかもしれない。反省しよう。
「……お前それ自分で言ってて恥ずかしくないの?」
う、うるせーやい! そういうことを言うんじゃないよ! お約束にはお約束で返しなさいよ何年の付き合いだコラァ!
もういい、教室中にカイルの噂流してやる。
純情行き過ぎちゃった少年として有名人にしてやるから覚悟しろ!
新たな噂を拡散することにより自分の噂をかき消そうと画策するソフィア。
実に小賢しい。




