今日もお説教を聞き流そう
朝の気配に目を覚ます。
気持ちのいい朝だ。
窓の向こうから鳥達の囀りが聞こえると無条件で良い朝だと感じるのはなんでだろうね?
ぐーっと体を伸ばして、寝ている間に固まったコリを解す。
うん、昨日の疲れはしっかり取れたみたい。
まさか寝落ちするとは思わなかったからね。自分で思っていた以上に疲れていたみたいだ。
さあって、今日も元気でかわいいソフィアちゃんを頑張りますか!
意気揚々と食堂に向かったのはいいけど、朝食の席では案の定、お母様に呼び出しを食らった。
さすがにお説教中に寝ちゃったのは全面的に私が悪い。
不可抗力とはいえ、罰は甘んじて受けよう。
一応昨夜のことは謝っておいたけど、反応をみるにそれ以外にも用事があるみたいだ。
なんかお説教されるたびに次のお説教が増えてる気がするんだけど。この負の連鎖、どうしてくれよう。
とはいえ叱られる内容も分からないとどうしようもない。
部屋で簡単な身支度と、ちょっとした準備を済ませてから呼び出し先であるお父様の執務室に出向いた。
「来たか」
お母様からの呼び出しだったけどやっぱりお父様もいた。
あとどうでもいいことだけど、いやそもそもお父様の執務室なんだから当然ではあるんだけど、お父様が一番偉そうな位置に座ってるのに納得いかない。
昨日は一緒に怒られた仲だというのに裏切られた気分。
ん? お父様がそっち側ってことはもしかしてお姉様の気持ちを強調して代弁してたのがバレたのかな?
お父様に叱られそうなことはそれ以外思いつかないし。
チラチラ見ていたらお父様に視線を向けられたお母様が頷いて、口を開いた。
「ソフィア、聞きたいのは貴女の魔法のことと、昨日の魔物に関してです」
なんだ魔物か。
私は俄然ペットにする気満々だったけどお母様と相談したいこともあったしちょうどいいかも。
「魔物はペットにしたいと思っているんですけど」
「はあ?」
真っ先に声を上げたのはお父様だ。
先生の話では魔物は危険なものらしいし、ペットにしようとする人なんかいなかったのかもしれない。
「魔物をペットにって、正気か?」
「もちろんです」
前々からペット欲しいって思ってました。
そんな折に旅先でおあつらえ向きにカワイイ野生動物に出会ったんだからこれはもう運命だと思う。
それが魔物だっていうのは、うん。まあ確かに、思うところが無いわけでもないけど……。
……誤差かな? うん、運命の神様のお茶目さん♪ ってことで。
「ダメに決まってるだろ」
ですよね。
「アナタ、口調が」
「いやだって……、俺だってこんな変なこと言い出さないぞ? これはさすがに無いだろ?」
なんか酷い云われような気がする。
でもあんなに可愛いのを魔物だからってだけで却下するのは、ってそうか。お父様は見てないんだね。
まぁ見たところで男の人までメロメロになるかは分かんないけど。なんならお姉様もいる前で見せたほうが有利になるかな? いや、下手したら親子喧嘩が再発しちゃうかな?
ひとまずお姉様は無しの方向で説得してみよう。
「お父様は見てないから言えるんです。一目見たら、女の子なら誰だって魅了されちゃう可愛さなんですから」
このソフィアちゃんが自信を持って推しちゃうよ。愛らしいフェレットと銀髪幼女が戯れる姿は万人を虜にできると自負しているよ。
「いやだって、魔物だろ?」
「お母様もかわいいと思いますよね?」
お父様が同じことを繰り返す機械になりかけてるから、考えが凝り固まっちゃう前に味方を増やそう。
こういう時はやっぱり論点をズラすべきだよね。
魔物は危険、だから飼えない。それを、かわいくて安全、だから飼えるって。飼うこと前提に進めちゃおう。
魔物だからってだけで危険視するなんてとんでもないですよ。飼い犬に手を噛まれるって言葉もあるじゃないですか。
ね? かわいいですよね? とお母様に念押しをすると、観念するかのように呟いた。
「確かに、かわいかったです」
「は? 魔物が? お前まで頭がおかしくなったのか?」
ちょおい。なんてこと言うの。私の頭がおかしいのは確定事項か。
私が言ったら間違いなく頭スパーンだろうけど、お母様も変なことを言っている自覚はあるのか困り顔になった。
「普通の魔物とは見た目がかなり違うのです。見れば、いえ、見なければ分からないと思います」
「あ、じゃあ出しますね!」
そうだ。混乱して戸惑ってる今は好機だ。勢いで全てを押し流すレニーちゃん方式でいこう。
私の両親ならきっと効果抜群のはず!
口を挟む余裕を与えないよう、早速アイテムボックスを開いた。
餌用にと果物を何回か放り込んでたけど、勝手に出てこないように入り口は小さくしていた。それを大きく開く。
すぐには出てこないみたいだったから、手を突っ込んで鎌鼬たちを引っ張ってみた。
手にやわらかい感触がしたと思ったらそのまま腕を駆け上って、体中を柔毛で撫で回される感覚に堪らず床に転がってしまった。
「あははは! く、くすぐったい!」
いけない、ころばされるのは印象が悪くなるから我慢しようと思って対策まで用意してきたのに。
まさか擽られるとは思ってなかったから油断した!
「ソフィア、それは……」
「あはは……、え?」
ようやく落ち着いてきた私がくすぐったさの元を掴んでいる手に目を向けてみれば、そこにいたのは首周りが私の手に収まるサイズしかない、普通のフェレットだった。
魔物だろうがフェレットだろうが鎌鼬だろうが。ソフィアにとってはかわいいだけが正義。