羨まけしからん
Q.兄と結婚したいんですがどうしたらいいですか?
A.妹じゃなくなればいいんです!
先生が言ってるのは、つまりはそういうことだった。
分かってるよ、動機が先じゃないって。
妹であったという過去と妹じゃなくなったという現実を最大限有効活用した結果、お兄様の婚約者という大変お羨ましい立場を得るに至ったんだって分かってるけど、それにしたってあああぁ羨ましいいぃぃぃ!!
今から立場が交換できるとしたら本気で悩んで、悩んで悩んで、悩み抜いた末お兄様を選ぶ。そのくらいの価値がお兄様にはある。
まだ婚約段階なんだけどぉ、でも卒業と同時に結婚してくれるって言ってたしぃ、とくねくね自慢し始めた先生さんを止めてくれたのは、アネットさんの様子を見に来た本物の先生だった。
休日の学院にアネットさんがいた理由はこの教師に補講を受ける為だったらしい。
ここ補講とかあったんだという驚きよりも先に教師が両手いっぱいに抱える課題っぽいものに目がいく。何故か嬉しそうにした教師がアネットさんの目の前に課題の山を置く。固まるアネットさん。
勉強のお邪魔になるといけないので、私はさっさと引きあげた。
◇◇◇
「お兄様。アネット、という名前に聞き覚えはありませんか?」
帰ってから一番にすること?
お兄様の婚約話が彼女の妄想かどうかの確認に決まってるじゃありませんか。
「……隠すつもりはなかったんだけどな。ソフィアは耳が早いんだね」
「婚約したと聞きました。事実なんですね?」
「そうだね。まだ正式なものじゃなくて、ただの口約束だけど」
だが悲しいかな、婚約は事実っぽい。オーマイゴッデス。後でリンゼちゃんに慰めてもらおう。
「……お兄様は、アネットさんと結婚したいんですか?」
どうしよう。こんなつもりじゃなかったのに、気付けばお兄様を問い詰めるみたいになってる。
違うんですお兄様。
ソフィアはお兄様に不満があるわけではなく、お兄様との恋愛トークがちょっと楽しくなってきちゃっただけなんです。
だってだって、お兄様ったらこれまで浮いた話なんて全然なかったじゃないですか! どういう心境の変化なのか気になるじゃないですか! そこのところ詳しく!
興味津々な私の様子を見てお兄様は微苦笑を浮かべた。
「どうしても彼女でなければ、って程ではないけどね。彼女が売り出してる商品は知ってるかい? あれが中々に便利でね」
商品とな。
そういえば去り際がアレだったせいか、そこそこ話し込んでた割にアネットさんについてはお家が商会ってくらいしか聞いてない。
我が家で私謹製の便利グッズに慣れ親しんだお兄様が便利だと評する商品……それ明らかに先生が一枚噛んでるね?
「どんな商品があるんですか?」
「女性向けの嗜好品が主なんだけど、実はスポンサーだけの優待商品があってね。姉上からの報せがどこよりも早く僕の元に届いたのは彼女の商品のお陰なんだよ」
へー。そんな前から関わりがあったのか。
疑ってたわけじゃないけど、先生はアネットさんの元でも上手くやってるっぽい。
あれかな、経営シミュレーションゲーム的な。
お家が成金貴族らしいし、最終目標は王家御用達の商会になることとかかな?
ともあれ。
「つまり愛はないと」
「愛は無いね」
お兄様から愛を勝ち取るのは、妹としての知識があっても難しいみたいだった。
愛がなかろうとお兄様との結婚はやっぱり羨ましいソフィアであった。




