もう一人の私
謝罪編飽きた
正直な話。
この身体をそのまま使っていいと言われて、私は明らかにほっとしていた。
「貴女はちゃんと自覚するべきですよ。貴女がいなくなると悲しむ人がいる事を。ソフィアの外見に惹かれたわけじゃなくて、貴女の人柄に惹かれて好きになってくれた人がいるんだって事を」
そして、彼女が……先生と呼ばれる彼女が、本当に私のことを想ってくれているのだと。心に刺さる言葉の端々から確かな思い遣りが伝わってくる。
彼女はきっと、私の悩みも知っているんだろう。
その証拠に、言い終えたあと「しまった」と言わんばかりに後悔を露わにして、軽率な言動をした自分を恥じているようだった。
その気遣いを感じて、同時に思い出す。
追い払うつもりで本性を晒したのに、離れることのなかったカイル。
無償の愛を注いでくれるお姉様や、明らかに異常な娘だろうに普通の親子として接してくれるお父様にお母様。
屋敷のみんなだって、学院のみんなだって、誰もがあまりに優しくて。
そして……家ではお兄様が、今も私の帰りを待っていてくれている。
誰にでも愛される子供だったと自信がある訳じゃない。
それでも、私がみんなを大切に思うくらいには。
きっとみんなも、私のことを想ってくれている。
そう、思えた。
「分かった。肝に銘じておくね」
自分の命は自分だけのものじゃない、か。
私の答えを聞いて笑顔を浮かべる彼女は、確かに「先生」と呼ばれるに相応しいのかもね?
眼差しに感謝の気持ちがこもりすぎたのか、私の視線を受けて恥ずかしそうに顔を赤らめた「先生」は話題を逸らすようにして自身の身に起きた事を話してくれた。
私の中にいた時のこと、アネットさんのところに移動した後のこと。
魂の視点というのは中々に新鮮で、色々と興味深い話が聞けたけど、まさか私の中から追い出された原因がミュラーの一撃とはねぇ。
まぁたしかにあれは「その時、世界に激震が走った!(物理)」って感じでマジめっちゃくちゃ痛かったけど、幸い後遺症は無いって聞いてたのになぁ。
お医者さんに魂減ってることに気付けっていうのも酷な話か。本人すら気付かなかったわけだし。
で、この「先生」さん。
生まれてからずーっと私と一緒にいたせいか、基本的な思考や嗜好が私と非常に似通っていると言うのですよ。
その彼女がね、問題を出したんですよ。
今まで通り私がソフィアの身体を使わせてもらうと決定したとはいえ、拭えない罪悪感が残る私に、この罪悪感を吹き飛ばしてくれるという問題を。
「ソフィアが私の立場だとして。ソフィアの体から離れて一番嬉しかったことは、なーんだ?」と。
真っ先に浮かんだのが美女になることだったんだけど、アネットさんは、ほら、美女というには、ね。だからこの答えは無いとして。
他にも考えてはみたけど、正直ソフィアの身体のスペックがそもそもかなり高いし、家族関係も良好。貴族としての格が今ひとつかなとは思うけど、有り余る魔法の才能の前ではそれも霞む。
うーんうーんと悩む私の前で、彼女は確かな優越感に満ちた顔で、言いたくて堪らなさそうにうずうずしている。つまり私の為の優しい嘘という線もない。
彼女にとっての益が確かにあるらしい。
でも、ソフィアの身体を捨てて得することって本当になんだろう??
「ヒントとかある?」
「ヒントかぁ。ヒントは、女の幸せ、かな?」
ヒントを要求しただけでめっちゃニヤニヤしだした。
私も似たような場面で似たような顔をしてるとしたら、地味にショックな程度には鬱陶しい顔だった。
女の幸せねぇ。
恋人、結婚とかそこらへん? でも相手が――っ!?
バッと顔を上げた私が答えに辿り着いたと分かったんだろう。彼女は、それはもう満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「そうです。兄妹という、本来越えられないはずの壁。でも私なら超えられるんです。だって兄妹だけど兄妹じゃないから」
「嘘だああぁぁぁ!!?」
こ、こやつ、お兄様と結婚する気だ!?
なにそれ羨ましいぃ!!
お兄様が寝取られるううぅぅぅ!!




